「ピカソになりきった男」を読みました。
アート業界って、闇深いところなんですね!
贋作画家だけが悪いのかと思いきや、なんだか色んな犯行が行われているらしいですよ。
善人から本物を安く仕入れたり、本物は売らずコピーを本物として売ったり。
これってどういう理屈なのでしょうか?
贋作でも絵自体が素晴らしいから?
本物を見分ける審美眼が無いから?
(以下、斜体は同書籍からの引用です)
基本情報と概要
題名:ピカソになりきった男著者:ギィ・リブ
訳:鳥取絹子
出版社:キノブックス
発売日:2016/8/13
「もしピカソが生きていたら、彼を雇ったことだろう」
ピカソのみならず、ダリやシャガールの贋作まで。
彼の贋作は鑑定家により真作と認められ、真作証明書つきで今も市場に出回っています。
絵を描くことが大好きだった純朴な少年は、なぜ世紀の大悪党になってしまったのか。
巨額の金が動くアート市場の欲望を、元贋作画家リブ本人が実名で告白します。
鑑賞者としての敗北
美術館で名画を鑑賞する時、あなたは何を考えていますか?ありがちな問いとして、もしも飾られている作品が贋作だったとして、鑑賞者には分かるのでしょうか?
否、でしょうね。
贋作は、鑑定家の目すら騙して美術館へ辿り着きます。
弊職には贋作を見破れない自信があります。うん。
この本を読んで確信しました。
リブ氏の努力を読んでみてくださいよ。
ピカソなどの画家の人生を学び、自分の心身に落とし込む作業。
画家のデッサンも色彩も理解するまでカタログを観察する根気。
古い画材を手に入れ、経年劣化を再現する手法。
全て生々しく語られています。
ピカソになりきるという表現はちょっと違う気がします。
ピカソになる。そんな感じです。
それだけ勉強し、地道な努力を積み重ねてやっと1枚のピカソ作品が生まれるのです。
これは、見破れないでしょう。
弊職はこの本を読んで反省しました。
美術館で名画に出会うとき、第一印象は大切にするのですが、じっくり見るフェーズを疎かにしているな、と。
どうしてここは青なのか?
どうしてここは線が太いのか?
ちゃんと考えてなかったです。
美術好きなのに高尚な感想が言えないことが弊職の持ち味であるとしても、もっと考えて鑑賞しなきゃダメですね。
最近はこの反省を活かし、美術館では1枚の絵をじっくり見ています。
ここは青一色に見えたけど、実は緑とのグラデーションだな。
老婆の目尻のシワが、見えるか見えないかのレベルまで細かく描かれているな。
服のレースは軽やかなタッチではあるけど、写実的というほどではないな。
などなど。
間近でよく観察しないと分からない発見が沢山あり、絵画鑑賞がとても楽しいです。
ところで、リブ氏は根っからの悪人ということはなく、とてもピュアです。
ただオリジナルよりも継承に才能があっただけ。
そのピュアさを利用した周囲の画商たち。
贋作を黙認するマーケット。
彼らの方がずっとタチが悪いですよ。
まとめ
今だにリブ氏の贋作が真作証明書つきで市場に出回っているのです。衝撃的なことですが、仕方ないこと。
アート業界の闇を実名で暴き、贋作の作り方や画家になりきる方法を教えてくれる本作。
面白すぎて一気に読んでしまいました。
贋作画家なんてまともな人間ではない、と思われがちですが、勉強熱心さには驚きます。
どうやって鑑賞したら絵画の本当の価値が分かるのか?
という問いに対し、ヒントを与えてくれる本でした。
関連情報
贋作とレプリカの違いについて考察してみました。よくわかる贋作とレプリカの違い
フェルメールの贋作を描いた作家についての本。
「ピカソになりきった男」は明らかにこの本のタイトルを意識していますね。
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