アドルフ・ヴェルフリ展、行きましたか?

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鑑賞者を飲み込む狂気!
こんなに危ない画家がいたなんて…!
突き抜けた表現力がビシビシ刺さる、生きた芸術の大展覧会でした。
自分のことを美術通だと思っている弊職のような人におすすめです。
常識がひっくり返ります。


〜目次〜
1. 展覧会の基本情報
2. 気になる混雑状況は?
3. 例えばこんな作品がありました
 ①隙間を埋める強迫性
 ②身近な画材と職人的技術力
 ③モノクロからカラーへ
 ④他者の入る余地のない孤独
4. 逆に惜しかったところ
 ①マニアックすぎる
5. まとめ
6. 関連情報


展覧会の基本情報

展覧会名:アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国
場所:東京ステーションギャラリー
最寄駅:東京駅
会期:2017/4/29〜6/18
作品数:約90点
所要時間:1.5時間
観覧料:一般は1100円
ロッカー:あり(無料)



気になる混雑状況は?

普通くらいです。

混んでいるわけでもなく、空いているわけでもない、といったところ。

ゴールデンウィーク真ん中で行ったのですが、程よい混雑です。
1つ1つの作品をじっくり見られますよ。
とにかく細かく描きこむ作風なので、ぜひ作品に近づいて見てみてください!



例えばこんな作品がありました

今回も例のごとく、権利の問題に踏み込まずに済むよう、パブリックドメインの画像を借りています。
展覧会で展示されている作品もあれば、展示されていない作品もあります。
展示されていない作品についてはその旨を記載しておりますので、イメージを感じてくださいますよう、お願いします。


①隙間を埋める強迫性

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アドルフ・ヴェルフリ「小鳥=揺りかご.田舎の=警察官.聖アドルフⅡ世., 1866年, 不幸な災=難」(1916年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵

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アドルフ・ヴェルフリ「Saint Adolph's Diamond Ring」(1913年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵
※本作品は展示されておりません


世の中には空間恐怖症という症状があるらしく、空白・余白があるのが許せないタイプの人が一定数いるようです。
ヴェルフリはその典型例だと感じました。

彼の作品は全て、モチーフがぎゅうぎゅうに詰め込まれています。
絵のサイズも結構大きいのに、この細かさなんですよね。
大きめの壁掛けカレンダーくらいのサイズです。

注目すべきは、鳥のモチーフ!
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(弊職のヘタヘタ絵)

餅みたいな鳥!

くたくたの餅を伸ばしたような形です。
ヴェルフリの絵にはこんな感じの鳥がよく登場します。
ほぼ全ての絵のどこかにいるので、この鳥を探すのも1つの鑑賞スタイルとして楽しいです。
耳がついた鳥も多いですよ。

餅を伸ばしたような形なのは、隙間を埋めやすくするためだと思われます。
都合の良い形のモチーフを作ってまで空白を埋めようとする執念に、心がぎゅっとなるというか。
狂気が滲み出ています。

ところで、鳥のモチーフで隙間を埋めるといったら、これですね。
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千鳥格子!

この柄、ずっと見つめていると何を見ているのか分からなくなってきて怖くないですか?
徐々に焦点が合わなくなってきます。
それと似たような不気味さがヴェルフリの絵にもあります。

ぎゅうぎゅうに詰まったモチーフが、動いているような気がしてくるんですよね…
目の錯覚って恐ろしい…



②身近な画材と職人的技術力

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アドルフ・ヴェルフリ「パリの=美術=展覧会にて」(1915年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵

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アドルフ・ヴェルフリ「無題(キャンベル・トマト・スープ)」(1929年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵


精神病院というのは些か差別的な言い方ですが、当時の精神病院というと精神科とは全く違うイメージです。
高級な画材は手に入りませんし、そもそもヴェルフリは最初から画家だったわけではありません。

彼の絵は鉛筆色鉛筆で描かれています。
芸術を生業としない人にとっても馴染み深い道具です。
ヴェルフリの作品は誰もが子供の頃に使った道具で描いてある、という親しみやすさも持ち合わせています。

だけど、子供には絶対に描けないですよね、こういう絵。
子供のまま大人になったような、とでも言いましょうか。
心の軋みが絵に向かっているように感じます。

それにしても、近くでまじまじと見ても鉛筆を消した跡が無いんですよね。
一定の筆圧で迷いなく曲線を引いていたことが分かります。
ところがコンパスや定規を使ったというわけでもありません。
フリーハンドで曲線を描いていたことを示しています。

凄くないですか!?
美術の教育を受けていないとは思えないほどの上手さです。
元から器用な人だったのかもしれません。
物凄い技術力です。



③モノクロからカラーへ

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アドルフ・ヴェルフリ「Medical Faculty」(1905)年)ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵
※本作品は展示されておりません

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アドルフ・ヴェルフリ「The Gulf of Mexico」(1911年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵
※本作品は展示されておりません


本展は、ほとんど時系列的にヴェルフリの作品を展示しています。
彼の作品は鉛筆だけのモノクロ画から色鉛筆で色をつけたカラー絵へと、徐々に変化していきます。
(もちろん例外もあり、後期でも色を使っていない作品もあります)

徐々に描きたい世界が明確になっていくんですよね。
モノクロ画の時は一心不乱に手を動かしているようで、心を落ち着ける手段にしているように見えるのですが。
色鉛筆を使うようになってからは、絵を描くことに快感を覚えるような、なんとなく楽しそうな感じがします。

ヴェルフリは妄想を紙に表現しました。
具体的な風景を描いたわけでもなく、自分1人で築き上げた世界を描いたのです。

色鉛筆になると、また世界観が広がるような感じがします。
色の濃淡でグラデーションを作ったり、はみ出さないように綺麗に塗ったり。
ヴェルフリの妄想もモノクロからカラーに変化したのではないか、と思うほど、色鉛筆を自在に操っています。



④他者の入る余地のない孤独

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アドルフ・ヴェルフリ「オイメスの死.事故.」(1917年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵

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アドルフ・ヴェルフリ「Calculation of Interest」(1912年)
ベルン美術館 アドルフ・ヴェルフリ財団蔵
※本作品は展示されておりません


モチーフがぎゅうぎゅう詰めだったり、数字や音符で画面を埋め尽くしたり。
一言で言えば「異色」なんですよね。

ただ、異色で終わらせてはいけないのがこの展覧会。

すごーい

で終わっちゃダメ

ヴェルフリはなんで統合失調症を患ってしまったのか?
きちんと向き合わないとこのアートは読み解けないと思いました。

父親は呑んだくれで、働き詰めだった母親はヴェルフリが8歳の時に亡くなります。
彼はまだ小さな子供なのに、勉強も仕事もして自活しなければならなくなりました。

好きな女性ができても、身分の違いのために彼女の親が猛反対し、結婚できませんでした。
その後は暴行事件で逮捕されるなど、孤独故に狂っていきます。

そして精神病院に収容されることになります。
彼のアートは病院で始まりました。

上手く行かない理不尽な人生とは別に、彼は理想の人生を妄想していたのでしょう。
資産の複利計算など、世界を統べる術を妄想していました。

そういう妄想を具体的に記録手段が彼にとってのアートだったのかもしれません。
凄く孤独じゃないですか。
自分が彼の立場だったら、って考えてしまいませんか?

だから、弊職はどうしても彼の作品を高みの見物的に見ることができませんでした。
統合失調症患者というマイノリティーの作品を面白がるのは、どうなんでしょうね。

価値観の多様化した現代において、なかなか難しいテーマだなぁと思いました。
あなたはヴェルフリを見てどう感じましたか?



逆に惜しかったところ

①マニアックすぎる

惜しかったところなんて特に無いです。
が、どうなんでしょう、アドルフ・ヴェルフリというマイナーなアーティストの展覧会に1,100円というのは。
皆さん行ってみたいと思うのでしょうか?

何をどう評価されているアーティストなのか?
その辺りの説明が欲しかったです。

あるいは、ヴェルフリがアウトサイダー・アートの原点だと言うのなら、それ以降にはどんなアーティストがいるのか、など。
どんな画家が影響をヴェルフリの影響を受けた、とか。
解説部分にはもっと充実させる余地があると感じました。



まとめ

狂気の妄想力と技術力!

こんな画家、初めて見ました。
美術教育を受けていなくても、天才的な表現力を持った人はいるものです。
鑑賞者に一方的な敗北感を与えてきます。

ある意味、不遇な人生が彼をアートに向かわせたとも取れますし、鑑賞者は身勝手です。
生々しいヴェルフリの叫び声がダイレクトに伝わってくる、美術好きの常識をぶち壊す展覧会です。


アドルフ・ヴェルフリ展、ぜひ行ってみてくださいね!



関連情報

アドルフ・ヴェルフリ展 公式HP

図録はネットで購入できます。
東京ステーションギャラリーということで、旅行行程の途中で訪れる人も多いはず。
持ち帰る荷物を増やすのではなく、通販で購入してみてはいかがでしょうか?




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