こだわりの毒気に酔っ払った…!

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想像していたより遥かに凄い展示でした。
小さめの作品が多いものの、それぞれの作家の異常なこだわりに怖さすら感じます。
「装飾」という本体とは無関係の飾りの部分にどれだけの心血を注げるか?
芸術家の内面がドバドバ流れていました。


〜目次〜
1. 展覧会の基本情報
2. 例えばこんな作品がありました
 ① もはや才能の無駄遣い
 ② 唯一触れる展示
 ③ 虫眼鏡をください
 ④ トゥー・マッチ・ファッション
3. 逆に惜しかったところ
 ① 展覧会名が分かりにくい
4. まとめ
5. 関連情報


展覧会の基本情報

展覧会名: 装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法 Decoration never dies, anyway
場所:東京都庭園美術館
最寄駅:目黒駅
会期:2017/11/18〜2018/2/25
作品数:約60点
所要時間:1時間
観覧料:一般は1100円
ロッカー:あり



例えばこんな作品がありました

本展は写真撮影OKでしたので、会場で撮影した写真を掲載しています。

①もはや才能の無駄遣い

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ヴィム・デルヴォワ
「リモワ・クラシックフライト・マルチウィール 971.73.00.4」(2015年)
「リモワ・トパーズ・キャビン・マルチウィール 920.56.00.4」(2015年)
「リモワ・クラシックフライト・アタシェケース 921.12.00.0」(2015年)


お金持ちの人のアタッシュケースやスーツケースですね。
表面の模様が細かくて素敵です。
ペルシャ絨毯ってこんな模様ですよね。

…じゃなくって。
これ、リモワのスーツケースの表面を、作家がその手で彫ったんですよ!


元々はこれです。
見た目は至って普通のスーツケース。

もうさ、なんなんだろうね。
少しでも彫れるところがあったら彫ってしまう人なのでしょうか。

しかも表面を削った分、スーツケースの外装が薄くなっています。
つまり、強度が下がっているのです。

本当、才能の無駄遣いだわ…。
そこが好き…。


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ヴィム・デルヴォワ「ノーチラス(スケールモデル)」(2013年)

これは巻貝のように見えますけど、良く見ると教会のデザインになっているという…。
ゴシック教会の縦に長い形を、巻貝のようにくるくる巻いたイメージです。

宗教と自然が一体になっています。
教会も巻貝もどこから着想を得たのか想像もできませんが、全然違うものを共存させているのです。
芸術でしかできないことなので、ロマンがありますよね。

これもさ、エネルギーの無駄遣いなんだよなぁ。
それが装飾の醍醐味でもあるんだけれども。

別に必要では無いんだけど、あると嬉しいもの。
カップラーメンの蓋を止めるシールみたいなものなのでしょう。


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ヴィム・デルヴォワ「二つの尾骨」(2012年)

これは前の2作品に比べれば単純ですよね。
人間の骨盤が2つ組み合わさっています。
骨フェチの弊職にはたまらん作品。
大理石でできているというのも、ミケランジェロを彷彿とさせて最高です。

これ、好きだなぁ。
骨盤といえば、赤ちゃんを守る所を連想します。
そこが2つ組み合わさっているのです。
意外に、夫婦の絆を描いた作品なのではないでしょうか。

あ、骨フェチとして補足しておくと、本作は尾骨だけではなく、骨盤全体の骨です。
尾骨というのは尻尾の名残りの骨のことなんですね。
尻餅をつくと曲がってしまうところです。

なので、本作に「二つの尾骨」という題名をつけたのには、何か深い意味があるのだとは思います。
和訳も間違っていないことを確認しましたし。



②唯一触れる展示

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ニンケ・コスター「オランダのかけはし」(2017年)

にゃんこスターのようなお名前の方ですね。
声に出して読むと、益々にゃんこスター。

ニンケさんの作品は、本展で唯一触って良い作品です。
そのためなのか、なぜか大勢が作品に座っています。
いつから日本では「触ってOK」を「お尻で触ってOK」と解釈するようになったのでしょうか?

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ニンケ・コスター「オランダのかけはし」(2017年)

扇のように飛び出た部分が出島だそうです。
建物の装飾の一部をシリコンで型取りしているので、
丸い部分は日本の装飾、出島の部分はオランダの装飾になっています。
シリコンなので、触るとぶにゅっとしますよ。

え、シリコンで型取りするなら誰でもできるって?
うーん、細かいことは良いじゃないですか。

建物や建物にくっついている装飾って、持ち運べないですよね。
その土地に行かないと見られないものなんです。
だから、装飾には郷土があります。

その郷土を持ち運べたら?
型取りという誰にでもできることだったとしても、最初にアートにした人がエライんです。


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ニンケ・コスター
「時のエレメント バロック」(2014年)
「時のエレメント 新古典主義」(2014年)
「時のエレメント 1800年代様式」(2014年)
「時のエレメント アール・ヌーヴォー」(2014年)
「時のエレメント アール・デコ」(2017年)

これもね、よくやりましたよね。
歴史的な装飾を型取りするって簡単に言うけれど、許可を取るまでが凄く大変だったはずなんです。
大変な思いで交渉して、やっと型取りの許可を貰って、やったことがイス作りですからね。
(イスに丁度良い大きさなんです)


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ニンケ・コスター「時のエレメント アール・デコ」(2017年)

弊職はこちらの作品がお気に入り。
大理石のような模様ですが、これもシリコンなんですよ。

昔の流行をシリコンで保存して、今の時代に運んでくる。
未来に残す。
まさに、装飾は流転する、だなぁと思いました。

Never dies.
死なないのです。



③虫眼鏡をください

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髙田安規子・政子「展望台」(2010年)

はじめ、何がどう芸術的なのか分かりませんでした。
自分の理解を超えた作品です。

題名の「展望台」がどれを指すのかは分かるのですが、どうして糸なんだろう?

…あ、この展望台、糸を巻いておく木のやつでできてる!
木彫りじゃん!!


どうしてこんなに細かいことができるのでしょうか。
目が悪くなるので、良い子は真似しないように。(褒め言葉)


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髙田安規子・政子「切り札」(2011年)

これももう、訳が分かりません。
作家は一卵性双生児とのことですが、こんなに細かい仕事ができる人がこの世に2人もいるなんて…。

本作は52枚のトランプの裏面(数字が書いてない方)に、全て異なる柄の刺繍を施しています。

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髙田安規子・政子「切り札」(2011年)

なんて繊細なトランプ…。
皇族が持っていそうな豪華さといい、庭園美術館の雰囲気にぴったりです。
裏面のデザインが全て違うと持っているカードがバレるので、観賞用ですけどね。

皇族の歴史に語り継がれる伝説のトランプ、という呼び名がふさわしいでしょう。
髙田姉妹のきめ細かい手仕事に惚れない人がいるわけがありませんね。
目が悪くなるので、良い子は真似しないように。(褒め言葉)


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髙田安規子・政子「梯子」(2007年)

これも細かい…!
初めて見た時、息を飲み込みました。
少しでも息を吐いたら倒れてしまいそうじゃないですか…。
(実際はガラス越しなので、強く息を吹いても大丈夫)

ちなみに弊職宅ではお菓子の開け口を止めるのに木製のピンチをよく使っています。
あんなに身近なものが、まさか庭園美術館で展示されているとは。



④トゥー・マッチ・ファッション

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山縣良和「神々のファッションショー」
2010年春夏コレクションより 新しく制作(2017年)

わっしゃーーーっ!
もっしゃーーーっ!


って感じの作品ですね。

淡いピンクや水色にはエンジェル感があります。
顔が見えないほど髪が長く、しかも多いのは、神の世界にハサミが無いからでしょうか?
神の髪、とは…(恥ずかしい)

うーん、何が良いとは言いづらい作品です。
でも、なんとなく良い。

はい、次行きましょう。


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山縣良和「インバネスコート」
「After wars」2018年春夏コレクションより(2017年)

赤ずきん、軍を引き連れて狼に復讐。

奇をてらったファッションではないのに、赤であることによってこんなに毒々しくなるとは…。
赤ずきん怖い。

刺繍が細かくて繊細な作品です。
綺麗なモデルさんが本作を着ているポストカードがあったのですが、物語性があって良かったです。
マネキンでは隠れている腕の部分、レースになっているんですね。
腕部分の素肌がチラ見えして、ちょっと官能的なんですよ。

マネキンの展示も無機質さが怖くて良いけど、生身の人間に着せて写真集作って欲しいです。


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山縣良和「graduate fashion show -0points-」
2009秋冬コレクションより 新しく制作 (2017年)

還暦?
と聞きたくなるほどの赤。
ちゃんちゃんこを思わせるデザイン。

題名を直訳すると「ファッションショーからの卒業」ですから、
本当に還暦をテーマにした作品なのかもしれません。

しかし、展示場所も含めて良くないですか?
水回りで、しかもトイレもある、絶妙に汚い雰囲気の部屋。
庭園美術館は全ての部屋が抜かりなく豪華ですが、ここだけはこれが限界なのです。

やや不衛生な空間に、赤い服のマネキン…
なんだか胸が苦しくなってきました。
病原菌と血液を連想してしまいまして…。



逆に惜しかったところ

①展覧会名が分かりにくい

古代ギリシアの哲学者、ヘラクレイトスの思想「万物は流転する」から展覧会名を取っています。
ですが、すぐにその意味に思い至る人はどれぐらいいるのでしょうか?

まぁ、自然界の全てのものは生きては死に、また生きる。
というように、移り変わりながらずっと生きていくというようなことです。
装飾にも同じことが言えるというのが、展覧会名のメッセージなのでしょう。

でも分かりにくいと思います。
「装飾は永久不滅…セゾンカード」とかで良かったのではないでしょうか。



まとめ

芸術家の切れ味鋭い能力が怖い。

この記事では4人の作家を紹介しましたが、あと3人の作家の作品が展示されています。
計7人の強いこだわりがありました。
7人の芸術家のドロっとした内面が、惜しげも無く展示されています。
この驚きは痛快です。

装飾は流転する展、ぜひ行ってみてくださいね!



関連情報

装飾は流転する展 公式HP

最先端ファッションを手がける山縣良和さんの作品やインタビューが載ってる美術手帖です。
2015年から注目されていた人だとは知りませんでした。
美術手帖は写真が綺麗で良いですよね。
美術手帖 2015年 08月号

  美術出版社 2015-07-17
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最近人気なのは森美術館のレアンドロ ・エルリッヒ 展です。
こちらも写真OKで、インスタ映えする展覧会です。



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