ブリューゲルとは、うなぎのタレだ。

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何度でも継ぎ足す。
親から子へ、子から孫へ。
父のやり方を受け継ぎ、自分のセンスを足していく。
そして息子に継承する。
うなぎのタレ方式で美味しくなっていく技術力。
フォーエバー・ブリューゲル。


〜目次〜
1. 展覧会の基本情報
2. 例えばこんな作品がありました
 ①今こそ孫を推したい
 ②元祖ブリューゲルの突き抜けた技量
 ③一族に受け継がれる技術力
 ④斬新な映像演出
3. 逆に惜しかったところ
 ①作品との間の距離
4. まとめ
5. 関連情報


展覧会の基本情報

展覧会名: ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜
場所:東京都美術館
最寄駅:上野駅
会期:2018/1/23〜2018/4/1
所要時間:2時間
観覧料:一般は1600円
ロッカー:あり(100円、使用後返金)



例えばこんな作品がありました

2月18日までは一部の作品が撮影OKです。
この記事では撮らせて頂いた写真と、パブリックドメインの画像を掲載しています。

①今こそ孫を推したい

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ヤン・ブリューゲル2世「ガラスの花瓶に入った花束」(1637-1640年頃)
個人蔵
※会場で撮影

ブリューゲル一族は「バベルの塔」を描いたピーテル・ブリューゲル1世から始まります。
この絵を描いたヤン・ブリューゲル2世はピーテル1世の

実は、弊職はヤン2世の絵が大好きです。
お花がとても上手い人なんですよね。

シルクのような光沢の花びら、種類の違う葉っぱの描き分けが上手いです。
咲き誇る」とはこういうお花のことなんでしょうね。
すごく誇ってる。
誇りすぎ。


あと、ガラス瓶の模様のディティールや、カタツムリがいるのも見どころです。
あ、てんとう虫もいるねー。

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ヤン・ブリューゲル2世「籠と陶器の花瓶に入った花束」(1640-1645年頃)
個人蔵
※会場で撮影

これも、綺麗すぎて見ているこちらが狼狽えますね。
香りが広がるような色彩で、それぞれのお花の存在が際立ちます。
鮮やかすぎて、植物図鑑っぽいです。

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ヤン・ブリューゲル2世「平和の寓意」(1640年代)
個人蔵

ヤン2世は、風景画も、お花の部分だけ異常に上手いです。
まあ、人物がちょっとブサイクなのが残念なんですけどね。
上の絵でも、よく見ると人々が絶妙にブサイクです。
植物しか描けない人というのが、また愛しさを掻き立てるんだなぁ。

しかも、右上のヴィーナスのそり(?)から宝石が零れ落ちてるんですけど。
この宝石、全てが正面を向いているという奇跡。

お花しか描けない天才画家。

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ヤン・ブリューゲル1世、ヤン・ブリューゲル2世「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」(1615-1620年頃)
個人蔵
※会場で撮影

そんなヤン2世のお父さんであるヤン・ブリューゲル1世との共作です。
お父さんのお手伝いという感じかな。
この人がお花の描き方しか教えなかったから、息子の描く人物は絶妙にブサイクなのでしょう。(妄想)

ちなみに、ヤン・ブリューゲル1世はピーテル・ブリューゲル1世の息子です。
次男なのです。



②元祖ブリューゲルの突き抜けた技量

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ピーテル・ブリューゲル1世、ヤーコプ・グリンメル「種まく人のたとえがある風景」(1557年)
個人蔵

これは唐突な展示でした。
ブリューゲル以外の絵がたくさん連続した後に、この絵がかけられていたんですね。

他の人の絵を連続して見た後だと、ピーテル1世の上手さが凄くよく解ります。

一色ではなく濃淡のついた青い水。
それでいて透明感がある青。


遠近法で遠くの方が少しずつ霞んでいくところの表現。
霞んでいくけど、遠くの人までシルエットはきちんと書いているところ。

画像だと大したことないですが、本物は本当に美しかったです。
もっと青々していましたね。

他の画家は、遠くに行くにしたがって徐々に霞んで行くべきところが急すぎたりしたんですけれども。
徐々に」という部分が難しいんでしょうね。
ブリューゲル一族のトップ、ピーテル1世の絵はナチュラルな美しさでした。
圧倒的に上手いです。

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ピーテル・ブリューゲル2世「野外での婚礼の踊り」(1610年頃)
個人蔵
※会場で撮影

ポスターにもなっている、メインの絵です。
展覧会の最後に見ることができます。
ピーテル1世の息子の作品です。

ずんぐりむっくりの登場人物たち。
「洗練」とは真逆の、田舎臭い雰囲気
彼らは踊っていますが、少し調子外れな、いわゆるダサいリズムが伝わってきます。

お父さんのピーテル・ブリューゲル 1世は農民画家だったので、長男の2世はそのスタイルを受け継いだのです。

ピーテル・ブリューゲル1世は、上で書いたように、とんでもなく絵が上手い画家なんですよ!?
そんな偉大な画家が、わざわざ農民を主題にしたのです。
天才は変わってる…!

というか、ヒエロニムス・ボス風のヘンテコ絵画を求められることに疲れたんじゃないかとも思うんですよね。
彼の描く人物を見ていると、なんだか不安にさせられるので。
オリジナルを求めた結果、ずんぐりむっくりな作風にたどり着いたように見えるのです。

そして、父の作風をそのまま受け継がざるを得なかったピーテル2世。
こちらはこちらで苦しみを感じてしまう…。



③一族に受け継がれる技術力

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ピーテル・ブリューゲル2世「七つの慈悲の行い」(1616年)
個人蔵

この画家はピーテル1世の息子で、長男です。
ヤン1世の兄ですね。
父親が描いた農民という主題を継承した画家です。
それがまた悲しい…。

「七つの慈悲」が何かはよく分かりませんが、キリスト教の主題だったりするんでしょうか?
食べ物、飲み物、着る物を与えられる人々を描いています。
あと4つは何なんでしょうか?


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アブラハム・ブリューゲル「果物の静物がある風景」(1670年)
個人蔵

これはピーテル1世のひ孫の作品です。
今までの絵とは違って、果物が瑞々しいですよね。
ぶどうの表面がツヤッツヤです。
しかも、カラフルな鳥が果物をついばむわけでもなく、ただ右上を見つめている謎な構図も好きです。

それにしても、ひ孫…!
4世代に渡って画家として活躍したということです。
これは凄いことなのです!

現代に置き換えてみると、2世タレントってそんなに凄くない人が多いじゃないですか?(失礼)
弊職が凄いと思うのは、神田沙也加さんくらいですね。

ということは、どんなに親が偉大であっても、才能が遺伝するわけではないということです。
努力があって初めて2世というメリットを活かすことができるのです。

だから、ブリューゲル一族は誰も親の七光りというわけではないと思うんですよね。
それぞれが努力したからこそ、画家としてのポジションを築けたのだと思います。



④斬新な映像演出

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展示風景

ピーテル1世の「野外での婚礼の踊り」が巨大スクリーンに映されています。
でも、絵をそのまま映しているのではないんだなぁ。

これ、人物が踊るアニメーションになってるんです!
なぜ!?


顔の角度が絵とは違う人もいます。
部分的に制作者の想像が入っているアニメのようです。
絶妙なテンションの音楽も流れていて、それに合わせて踊っているアニメですね。

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展示風景

弊職が行ったときは空いていたので、スクリーンの必要性は特に感じませんでした。(失礼)

でも、混んでいるときはこういうのがあった方が良いかもしれないですね。
巨大スクリーンで予習しておいて、いざ絵の前に行けたら気になるところを重点的に見られる的な。



逆に惜しかったところ

①作品との間の距離

個人的に、都美は作品との間の「ここから先は入っちゃダメ」ゾーンを比較的広く取っている気がします。
それは悪いことではないのですけれども。

ただ、本展の作品の一部はポストカードくらいのサイズです。
その中に細かく描きこまれています。
また、大作であっても細かく描きこむタイプの絵画は、肉眼だと十分に見切れないです。
もう少し近づかないと、見えない。

だから、単眼鏡を持っている人は忘れないでくださいね!
かなり役に立つはず!

ちなみに弊職が持っているのはこちら。
4倍と倍率が低いのではないかと思われるかもしれませんが、美術品を見るくらいなら余裕です。
サイズも小さくて、使わないときにも邪魔にならないのが良いです。



まとめ

秘伝のうなぎのタレのように美味しくなる絵画。
父のやり方を受け継ぎつつ、自分流を足して成長したブリューゲル一族。
時代の好みに合わせてモチーフを変えながら、写実や風景というコアはそのまま受け継がれていました。

ブリューゲル展、ぜひ行ってみてくださいね!



関連情報

ブリューゲル展 公式HP

以前、同じく東京都美術館でバベルの塔展がありました。
緻密なバベルの塔と、ヘンテコ版画がたくさん見られた、ピーテル1世のための展覧会でしたねー。
デジャヴでした。


バベルの塔展のときに、ブリューゲルの関連書籍がたくさん出版されましたよね。
ブリューゲル一族だけでなく、フランドル派の近しい作品が網羅されているのでお得。
ブリューゲルとネーデルラント絵画の変革者たち
幸福 輝

by ヨメレバ



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