美術と性。

平たく言うと美術品のヌードはアリかナシかって話です。

まず、ニューヨークのメトロポリタン美術館でバルテュスの「夢見るテレーズ」撤去問題というのがありました。
撤去を求める署名が集まりましたが、美術館は特に対応しなかったようです。
弊職も撤去しなくて良いという立場です。
詳しくはこちら。


今回の本題は、それに続きそうな事件がイギリスのマンチェスター市立美術館で起こった件です。
なんと、ウォーターハウスという画家の「ヒュラスとニンフたち」という絵が、突然撤去されたのです。

2018/2/4 追記:
現在は元通り展示されているか、展示予定とのことです。
が、こんな事件があったということは記事として残しておきますね。

ヒュラスとニンフたち撤去事件

image
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「ヒュラスとニンフたち」(1896年)
マンチェスター市立美術館

この絵、好きだなぁ。

この絵が美術館の壁から撤去されました。
正直、そんなにあからさまなヌードには思えないけど…。

詳しくは美術手帖に譲りますが、あらましはこうです。

①「セクシャルな表現が物議を醸す可能性あり?」と思った美術館が撤去
②「なんで撤去したし!意味わからん!」とSNSなどで炎上
③美術館も「炎上に対抗しよう!」と大人気ない対応で燃料投下

こんな感じ。
撤去は美術館の意向なので受け入れるしかありませんが、もうちょっと上手いやり方があったと思うんだよなぁ。
展示替えという名目で裏に引っ込めるとかさ。


そもそも、なんでこの作品だけなのか?

マンチェスター市立美術館には他にヌードの作品が無いということでしょうか?
そんなわけないと思うんですよね。

少女だからダメってこと?
ほとんど裸で十字架に磔にされて胸から血を流してるキリストなんか、映画だったら完全にR指定なんですが。
あと、キューピッドも際どくない?
赤ん坊の性器出てること多いよね?

なんでこの作品だけ撤去したのかっていう説明が不足してると思うんですよね。
イギリスのメディアBBC(日本で言うNHK)のサイトも見ましたが、ちゃんとした説明は無いです。

MeToo運動が広がっていることもあり、ヌード作品への見方が変わってくるとは思うんですよ、弊職も。
多分、マンチェスター市立美術館もそういう価値観の180°反転みたいなのを懸念してるのでしょう。
だけどさ、いきなり撤去するのは悪手じゃないかい?

美術館サイドも公式ブログで意見を書いていますが、擁護しようのない職権乱用ですね。
ヴィクトリア朝時代のファンタジックすぎる作品は、現代の鑑賞者には合わない
とか、美術専門家の意見とは思えないんですが…
見方なんて鑑賞者それぞれじゃないですか。
どうしたんだマンチェスター。


案の定、非難ゴーゴー。

驚くべきは美術館の対応。
撤去して空いた壁に「ヴィクトリア的幻想に打ち勝とう!」というスペースが設けられたのだそう。
美術館に来たお客さんが付箋にコメントを書き、壁に貼れるスペースです。

既にたくさんのお客さんがコメントを貼り付けています。
上に貼った美術手帖やBBCのリンクから見られます。
しかし付箋の内容は、撤去に反対する声が圧倒的に多いようですね。

弊職もそう思いますよ。
この作品が描かれたのは、1896年のことです。
2018年の今、セクハラが社会問題になっているから」という理由で撤去したのだとしたら。
あまりにも節操ない対応だと思います。
ウォーターハウスに失礼です。


弊職の意見。

美術品はそのまま飾っとけば良いでしょう。
既に亡くなった画家は何も語れないんです。

この作品はセクシャルであかん!と誰かが決めつけたら、その作品はもうアウトなんですか?
鑑賞のあり方に1つの正解を決めて、他をシャットアウトするのは検閲ですよ。

作品自体は悪くないのにね。
今の価値観で断罪するのは、作品と画家が可哀想です。
当時は正しかったんだから。

仮に「ヒュラスとニンフたち」にインスピレーションを受けて強姦しました!
っていう人が現れたとするじゃないですか。
それでも悪いのはその人で、作品は悪くないと思うんです。
マンチェスター市立美術館はそう考えないということなんでしょうかね。

前回も言ったけど、まともな人はどんなヌード作品を見ようが見まいが、セクハラなんてしませんよ。
そもそもセクハラって根本は人間どうしの誤解から生まれるものだから、美術品を撤去して解決に貢献できる問題じゃないと思うんですよね。


もしかしたら、壮大なモニタリングの可能性も。

撤去について記録された映像が、2月23日から同じくマンチェスター市立美術館のソニア・ボイス展という企画展で流されるとのことです。
この展覧会で、撤去についての全貌が明らかになるのでしょうか。

もしかしたら、なんですけど。
壮大な実験…もとい、モニタリングという可能性は無いでしょうか?

MeToo運動やバルテュス撤去問題に鋭く切り込む映像作品を撮っていた、という可能性は無いでしょうか?
すなわち、「ヒュラスとニンフたち」の撤去が美術館のパフォーマンスだった…!
なんてことになる可能性も、少しはあると思っているのです。


まとめる。

とにかく、現代の社会問題と過去の創作物にどんな関連性があるのか?
それが説明されないまま、美術館が「ヒュラスとニンフたち」を撤去したのが残念です。

マンチェスターに限らず、どこの美術館も難しい状況に置かれていることは察します。
表現の自由」があるなら「鑑賞者の解釈の自由」もありますから。
作家の意図とは違う悪い方向に解釈されても仕方がないのです。

もしかしたら、バルテュスの「夢見るテレーズ」のように、撤去を求める運動が広がるかもしれない。
性差別問題だけでなく、人種や宗教の観点で別の問題が起こるかもしれない。
それを恐れる気持ちも分かります。

だけど、こういう状況で人類の創作物を守り、後世に伝えるのが美術館の役割なのではないでしょうか。
今のタイミングでの撤去は、作品に「この作品はセクハラをテーマにした不適切な作品です」とレッテルを貼ることになりますよ。


関連情報

ウォーターハウスはラファエル前派の画家です。
無気力な人物表現が魅力的ですが、これが今回撤去された理由の一つなのかも。
ラファエル前派についてはこちら。


弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。
最新の展覧会情報はこちら。
今月の展覧会
今までに行った展覧会一覧


ツイッターでは更新情報をつぶやいています。



最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました!
良かったら応援クリックお願いします!
にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
にほんブログ村