凹版印刷の手法の違いについて。

版画の4形式の違いを紹介した記事が意外と好評だったので、もっと詳しい記事を書いてみようと思います。

前回の版画の4形式についてはこちら。
今回はこれの続きという位置付けです。

前回は、版画の4形式についてでした。
①凹版(おうはん)
②凸版(とっぱん)
③平版(へいはん)
④孔版(こうはん)

今回は、①凹版を掘り下げていきます。

凹版印刷で代表的なのは、この5種類です。
・エングレービング
・ドライポイント
・メゾチント
・エッチング
・アクアチント

それではそれぞれの特徴を整理していきましょう。
しかし…果たしてこんな細かいところまで美術検定で出題されるかどうかは不明です。
たぶん出題されないでしょう。
でもとりあえず美術検定カテゴリに置いておきますね。


前提

どの技法でも、の板を削って凹凸をつけています。
その「凹凸のつけ方」に違いがあり、それが版画の線や色のニュアンスの違いになっていきます。


エングレービング

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一番理解しやすいのはエングレービングです。
「エングレービング」とは英語で「彫ること」「彫刻」というような意味になります。
文字通り、版画を彫るという意味ですね。

銅版をビュランというノミみたいなナイフで削り、ヘコミをつけていきます。
このヘコミインクを溜めて紙に線を写します。

この方法だと、板の平らな部分とビュランで削られたヘコミの部分がキチッと分かれます。
なので、くっきりした線の版画ができるんですね。

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ピーテル・ブリューゲル1世「大きな魚は小さな魚を食う」(1557年)
エングレービング

ドライポイント

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ドライポイント=乾いた点…?
というわけではないみたいです。

こちらは「ポイント」という道具で銅版を削っていきます。
針のような道具で、削るというより、めくれさせるって感じですかね。
カリカリ引っ掻いてめくれさせる感じ。

なので、ヘコミも大事なんですけど、めくれ部分も線のニュアンスに貢献するんですね。
ヘコミめくれにインクを溜めて版画を擦ります。

エングレービングはくっきりした線が特徴でしたが、ドライポイントは「ヘコミ+めくれ」でできるぼんやりした線が特徴です。

でも、ヘコミだけでなくめくれもコントロールしないといけないから、思い通りに刷り上がる作品を作るのは中々大変なんだそうです。

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アルブレヒト・デューラー「The Man of Sorrows with Hands Bound」(1512年)
ドライポイント

メゾチント

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メゾチントはねー、本当に大変そうな技法。

まず、銅版を全面的に傷つけギザギザにします。
なんていうのかな、大根おろし器みたいな感じ?
ギザギザにするときに使う道具はロッカーというそうです。

この状態で刷ると、インクが全面的につくので真っ黒な絵になります。
ここから、白くしたい部分を削っていく作業に入ります。

白くしたい部分はスクレーパーという道具でギザギザを削ってしまいます。
平らにしてしまうのです。

で、銅版にインクを詰めてサッと拭き取ると…
ギザギザの所にはインクが残り、平らな所は拭き取られてインクが無くなります。
なので、
ギザギザ→黒
平ら→白

となるわけです。

エングレービングやドライポイントは線を描く版画でした。
メゾチントは、面で色分けする版画ですね。
綺麗なグラデーションが作れるのはメゾチントの特色だと思います。

しかし大変そうな技法だわ…。

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ピーター・イルステッド「Sunshine falling on a door」(1910年)
メゾチント

エッチング

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エッチングエングレービングの理科バージョンというイメージ。
物理的に銅を削るのではなく、銅を溶かす液体を使って彫っていきます。
何言ってるのかちょっと分からないですね。

まず、銅版を全体的にコーティングします。
銅溶かす溶液を腐蝕液と言いますが、この腐蝕液から銅版を守るコーティングです。

次に、鉄筆で銅版を引っ掻いて絵を描きます。
引っ掻いたところだけコーティングが剥がれます。

絵が描けたら、腐蝕液に銅版をボトッと浸します。
こうすると線の部分だけ銅版が溶けていくので、ができますね。

で、エングレービングと同様にインクを入れて紙を当てれば版画が刷れます。
エングレービングとの違いは、人の手作業の細かさですね。
エングレービングは人が手で掘りますが、エッチングは鉄筆で絵を描くだけです。
エッチングの方が細かい表現ができます。

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オディロン・ルドン「『ゴヤ頌』II. 沼の花、悲しげな人間の顔」(1885年)
エッチング

アクアチント

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アクアチントなんかもう全然意味が分からない。

まず、彫りたくないところ(=白くしたいところ)に防腐剤を塗ります。
マスクするイメージです。

次に、全体的に松ヤニの粉を振りかけます。
で、加熱して松ヤニを銅版にくっつけます。

今、防腐剤と松ヤニが乗っかっている状態です。
松ヤニはたっぷりではなく、粉と粉の間に隙間が空いているのがミソです。

この状態で腐蝕液にボトッと浸します。
すると、松ヤニの粉と粉の間だけ腐蝕されます。
少し時間が経ったら、腐蝕液から銅版を出し、洗います。

で、次はグレーにしたい部分を防腐剤でマスクします。
また松ヤニを振りかけ、加熱し、腐蝕液に浸す…。
これを繰り返すことにより、腐蝕による穴の深さをコントロールするのです。

どうして穴の深さをコントロールしたいかというと、色の濃さをコントロールするため。
穴が深い方は黒寄り、浅い方は白寄りの色味になります。

この方法も、銅版全体の色味を穴でコントロールする技法なので、メゾチントに似ています。
メゾチントの化学版といったところでしょう。
かつ、エッチングの面バージョン

というか、皆さん大丈夫でしょうか?
ここまで伝わってますか??

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フランシスコ・デ・ゴヤ「理性の眠りは怪物を生む」(1799年)
アクアチント、エッチング

人の手で直接彫るか?間接的に彫るか?

道具を使って版画を人の手で彫る技法のことを、直接法と言います。
これを弊職は「物理的に彫る」と表現しています。
該当するのは、
・エングレービング
・ドライポイント
・アクアチント
の3つですね。

一方、腐蝕液を使い、彫る作業そのものを人間が行わない技法を間接法と言います。
弊職は「化学的に彫る」と表現しています。
化学反応を利用した彫り方だからですね。
該当するのは、
・エッチング
・アクアチント
の2つです。


まとめる。

たぶん、ここまでの知識は美検2級には必要ない…。
でも、調べてみたら技法によって線のニュアンスが違うことが分かって、これは面白かった!

エッチング、ドライポイント、エングレービングあたりは美術館でもよく見かけるので、こういう背景知識があると鑑賞の幅が広がりそうですよね。
ポスター以前の版画って、2色だし小さいし地味な印象ですけど、芸術家の技術が詰まってるんだなってことがよく分かりました。


関連情報

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教科書はこちら。
版画の4形式についても少し載っています。
が、皆さんはここまでの記事で既に版画マスターになっているので、美検も恐れるに足りずです!
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by ヨメレバ


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