ソフィ カル 限局性激痛 主観レビュー後編。

「結末が分かっているからこその悲しみや淡い期待」で他人の不幸をおもちゃにした第1部。 今日は後半の第2部。 失恋から立ち直りますよ! ソフィさんが失恋から立ち上がる術はこちら。 ①自分より不幸な人の話を聞いて、自分はマシだと癒される ②何度も失恋話を語るうちに、「私が悪かったの」から「あいつが悪い」と責任転嫁 凄くない? 誰しも①や②の経験はあると思うけど、大っぴらにはしないよね? 国民性の違いなの?
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「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示風景 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
ソフィさんが失恋話を誰かに話し、それを聞いた人がもっと不幸な話をするんです。 身近な人が亡くなった話が多くて、凄く重い。 展示は時系列順。 だから、ソフィさんがどんどん立ち直っていく様子がハッキリと分かるんです!
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「ソフィ カル―限局性激痛」1999-2000年 原美術館での展示風景 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
注目したいのは、それぞれのストーリーが日本語の活字の刺繍で描かれていること。 ソフィさんの失恋話は黒っぽい布地に刺繍が施されています。 失恋直後の「私が悪かったのよ…」的なムードの時は、白い糸でハッキリと失恋話が刺繍されています。 とても読みやすい。 しかし、他人のもっと不幸な話を聞いたり、時間が経ったりしてくると、「あいつが悪かったんじゃね?」みたいな気持ちになってきます。 刺繍の糸も時間とともに布の色に近い黒色になってきて、文字が読みにくくなるんです。
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Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
ああ、これが「立ち直る」ことであり、「忘れる」ということか…。 過去を無かったことにはできないけど、心が傷つけられた記憶が薄まることで、立ち直れるのですね。 糸が布と同じ色になって読みにくくなったソフィさんの失恋話。 これを見て、「立ち直る」ことの善し悪しを考えてしまいました。 忘れてるだけ、だもんね。
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Photo:Jean-Baptiste Mondino
あ、「限局性激痛」の説明を忘れてた。 「『限局性激痛』とは、医学用語で身体部位を襲う限局性(狭い範囲)の鋭い痛みや苦しみを意味する」 とのこと。 この「狭い範囲の痛み」をどこに感じるかは、見る人によって解釈の幅がありそう。
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Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
本展は ・ソフィさんが自身の失恋をコンテンツとして見る人に消費させる第1部 ・自分より不幸な人の話を聞く劇薬で立ち直り、記憶を消す第2部 だと捉えています。 私が限局性激痛を感じたのは、むしろ第2部。 僭越ながら私も大好きな人に突然「別れよう」と言われたことがあります。 昔のことなので、どうでもいい記憶ですが。
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Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
記憶を風化させるプロセスをまざまざと見せられたようで… 逆に、自分の失恋経験が鮮やかに蘇ってきたんです。 「私の失恋もこうして風化していった」と、布と同じ色の刺繍糸を見て思い出しました。 風化しただけで、心の傷は癒えてないから、急に辛くなってきちゃって。 ガラスの破片が胸に刺さったような失恋の痛みがクリアに戻ってきました。
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Sophie Calle Exquisite Pain, 1984-2003 © Sophie Calle / ADAGP, Paris 2018 and JASPAR, Tokyo, 2018
第1部でソフィさんの失恋をおもちゃにした後、第2部で私の記憶はえぐられ、限局性激痛が蘇りました。 まるで他人の不幸で遊んだ罰とでも言うように、です。 こんな現代美術があるんだね。 悲しみに蓋をして生きる全ての人と共有したい展覧会です。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加

展覧会基本情報

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展覧会名:「ソフィ カル—限局性激痛」 原美術館コレクションより 場所:原美術館(品川) 会期:2019/1/5〜3/28 休館日:月曜日(1月14日、2月11日は開館)、1月15日、2月12日 開館時間:11:00-17:00(水曜は20:00まで/入館は閉館時刻の30分前まで) 所要時間:2時間 観覧料:一般は1100円 公式HP:https://www.haramuseum.or.jp

関連情報

1999〜2000年に行われた展示は小さな本になっています。 ソフィさんの写真と文章がそのまま載ってるので、本展の図録のような感じです。 原文はフランス語で、原美術館で売っているもののみ和訳がついているそうです。 第1部の失恋の過程。 こちらは爆弾魔のように残酷なカウントダウンにキリキリしました。 原美術館はカフェも居心地が良いです! 展覧会をイメージしたケーキを食べられるので、新しい展示が始まる度に行ってます。 原美術館は現代アートの展示が多い美術館です。 作品を置くだけでなく、美術館全体をアーティストが好きなように使って表現する展覧会が特徴。 前回のリー・キット展は好例で、建物が語りかけてくるような美術展でした。 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ただいま、ツイッターの情報発信を強化中。 ブログ更新情報はもちろん、最新のアートニュースもお届けします。 インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
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