森村泰昌『手の美術史』読書レビュー。

占いに全く興味が無い私でも、手相占いは割と信じちゃうんですよね。 正確さはともかくとして、手のシワに人生が現れるのは、なんとなく納得感があります。 そもそも手フェチなので、好きな男の子ができると手を替え品を替え、手を触ろうと頑張ります。 文にすると気持ち悪いな…しなくても気持ち悪いか…。 ここまでの「手フェチ過激派」ではなくとも、手や指に魅力を感じている人は多いはず。 異性の艶かしいエロティシズムだったり、自分の年齢と人生経験だったり、手にはさまざまな情報が含まれています。 『「手」は、身体のほんの一部であるにもかかわらず、その「手」を持つ人のすべてをヌードにしてしまうほどの、驚くべき饒舌を持っている。』 これは森村泰昌さんの著書『手の美術史』の一文。 本書には、顔よりも雄弁な名画の「手」がたくさん掲載されていました!

本の特徴:名画の「手」だけを大胆にトリミング!

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森村泰昌『手の美術史』p.14-15、レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》(1503-05年頃) ルーヴル美術館
絵画の中に人物が出てくると、必然的に手も描かれます。 手を主役にした絵は基本的には無いので、『手の美術史』では「手の部分だけ」をトリミングして掲載されています。 本のサイズは小さめですが、手がドアップで載っているので満足感がたっぷり。 フルカラーで見応えも充分です。 顔の情報が削ぎ落とされ、名画の手だけを見る。 こんな体験は、本書でしかできないわけで… 顔に惑わされず、手の表情を読み解いていくのが面白いです。

「手」で読み解く名画の物語

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森村泰昌『手の美術史』p.132、アングル《ドーソンヴィル伯爵夫人》(1845年) フリック・コレクション
労働者の手の日焼けは、日々を必死に生きる姿が見えてきます。 一方、アングルが描く手は美しすぎて、「二次元の美女」感がすごい。 宗教画だと手のポーズも形が決まっているのか、硬いジェスチャーのような仕草が多いですね。 野球のサインみたいな感じ。 手の形だけでなく、透明感とくすみ、爪の形も見どころです。 爪の形や汚れからは、人物の性格まで分かってしまう気がする…。 しかし爪って、ただでさえ描くのが難しい手の中でも特に難しそうなパーツだなぁ。

「手」を見ると好きな絵画が変わる!

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森村泰昌『手の美術史』p.117、リベーラ《デモクリトス》(1630年) プラド美術館
誰もが知っているモナ・リザの両手も載っていますが、他にも有名な絵・マイナーな絵の手がたくさん。 「手」だけがトリミングされた面白い本なので、手の印象だけで好きな絵画を見つけることができます。 森村さんの『手の美術史』を見ていて、一番気になったのが上に載せた『リベーラ』という画家の描いた手です。 シワシワですが、社交界を渡り歩いてきた紳士の、賢く少しズルい性格が出ているように感じられて。 でも、全体像はこんな感じなんですよねー。
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リベーラ《デモクリトス》(1630年) プラド美術館
詳しくは割愛しますが、全体像を先に見ていたら、興味が湧かなかったと思います。 (構図は最高だと思うんですけど、顔がタイプじゃないから展示されていてもスルーしてる)

森村泰昌『手の美術史』が面白い!

出版されたのが2009年なので、旬を逃してしまったのかもしれませんが、2019年でも面白い本でした! 肖像画など人物が描かれた絵を見るとき、ほとんどの人は「顔」から見始めると思います。 『手の美術史』では顔はバッサリ落とされ、手をクローズアップする形で絵が載っているので、普段と違う見え方が面白いですね。 『「手」は花に似ている。開いたり閉じたり、揺れたり忍び寄ったり、柔らかくなったり硬くなったり。』 と本書で語られているとおり、手は顔よりも雄弁です。 化粧で見え方を変えることもできません。 新たな鑑賞体験ができる、素敵な発想の本でした! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加

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『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』も読みました。 本が溜まって困っている人は、スキャン代行サービスを使ってみるのも良いと思います。 アートのYouTube始めました! 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
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