『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』主観レビュー前編。

アートの定理YouTubeでは美術館の動画を配信しています。 現代アートを楽しむには、耳も重要です。 もちろん目で見て楽しむこともできますが、最近のアートは視覚だけでなく聴覚にも刺激を広げています。
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セレスト・ブルシエ=ムジュノ《クリナメン v.7》 ©Céleste Boursier-Mougenot
ポーラ美術館で『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』という展覧会が始まりました。 普段はモネなど西洋美術のコレクションを中心とした展覧会が多いポーラ美術館ですが、今回は初めて現代アートをテーマに企画展を行います。 本展で面白かったのは、ずばり「音」ですね!
プールに浮かんだお皿がぶつかって音を奏でる作品は、インドネシアのガムランに似た音色ですね。 お皿の大きさによって音の高低は異なりますが、どれも綺麗な音で、目立った不協和音は無いように感じられました。 これは偶然では無いはず。 綿密に計算して、音をコントロールしているのではないでしょうか。
対して、壺にマイクが刺さるように入っているのが印象的なこちらの作品は「不協和音」を使った作品です。 動画では他の音が大きく入ってしまっていますが… 物体には固有の振動数があって、静かに鎮座している置物も周囲の音に共鳴して振動することがあります。 歌手がハイトーンボイスをぶつけてワイングラスを割るのと同じ原理です。
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オリヴァー・ビア《悪魔たち》 ©Oliver Beer フォーリンデン美術館、ワッセナー、Voorlinden Museum, Wassenaar
本作はその性質を活かし、静物を触らずに音を奏でる作品。 お皿の衝突で音を作る《クリナメン v.7》とは対照的と言えるかも。 さまざまな種類の置物がありますが、同時に鳴ると不協和音を奏でます。 「悪魔の音程」と訳される「トライトーン」で、不安を煽るコードなんですよね。
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オリヴァー・ビア《悪魔たち》 ©Oliver Beer フォーリンデン美術館、ワッセナー、Voorlinden Museum, Wassenaar
トライトーンは緊急地震速報にも使われていて、本能的に「ヤバイ」と察知してしまう音なんです。 本作は緊急地震速報のように急かす音が鳴るわけではありませんが、薄ら寒くなる感覚はありました。 しかも、誰かが演奏しているわけではないのが不気味ですよね。 デザインや色と違って人間が意図して与えた音色ではないので、物体に意思が芽生えたようで怖いです。
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横溝静《永遠に、そしてふたたび》
この展示室もお気に入り。 私がピアノ好きだから…という理由もあるのですが、居心地の良さが群を抜いています。 スクリーンに映るおばあちゃんはピアノを弾いていますが、プロのピアニストとして活躍していた人から、趣味で弾けるピアノ愛好家までさまざま。 同じ曲を弾いているのに、よく聞くと弾き手の違いを感じ取ることができます。
さて、横溝さんの映像作品はボナールやルノワールなどの絵画と共に展示されています。 本展は現代アートと巨匠の西洋美術を1つの流れで展示しており、場合によっては100年以上も隔たる作品が同じ空間に展示されています。
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ピエール・ボナール 《ミモザのある階段》
中でもお互いに価値を高めあっていると感じたのが、横溝さんの作品とボナールの《ミモザのある階段》です。 ボナールの晴れやかな色調と、横溝さんの映像から感じられるノスタルジーが、ギャップでもあるけど調和していました。 片方が思い出で、片方が今なのでは? ボナールが見ていた景色は、横溝さんの作品に映る景色だったのではないか? 2つの作品がクロスオーバーして、新たな世界観が形作られていました。
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ピエール・オーギュスト・ルノワール、左から《アネモネ》、《水差し》
現代アートと巨匠の西洋絵画が意図的なズレを持って噛み合うことを、音楽用語の「シンコペーション」にたとえた本展。 見所が多すぎて、ここでレビューを終えるのはもったいないので、後編に続きます。 後編はこちら! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート 場所:ポーラ美術館(箱根) 会期:2019/8/10-12/1 ※会期中無休 開館時間:9:00-17:00(最終入館は16:30) 所要時間:3時間 観覧料:一般は1800円 公式HP:https://www.polamuseum.or.jp

関連情報

ポーラ美術館のようにコレクションが充実している美術館は、まとまったカタログをどんどん出してほしいなぁ。 現代アートといえば、東京都現代美術館もおすすめ。 東京オペラシティ アートギャラリーでも、現代アートの大きな展覧会が開かれています。 アートの定理は1日1200人くらい方が読む美術メディアに成長しました。 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
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