『北脇昇 一粒の種に宇宙を視る』主観レビュー 前編。

北脇昇さん(1901〜1951年)をご存知でしょうか? 1930年代から40年代にかけて、京都で活躍した画家です。 シュルレアリスムに分類されていますが、21世紀の現代人が見ても「新しい」と思ってしまう作品をたくさん残しています。
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北脇昇《最も静かなる時》1937年 東京国立近代美術館
北脇作品を162点所蔵する東京国立近代美術館で、コレクションによる小企画『北脇昇 一粒の種に宇宙を視る』が開催されています。 1997年の回顧展以来、23年ぶりにまとまっての展示となりました。 最近好きになった画家なので、良い機会に恵まれて幸せです。
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展示風景
しかし、北脇さんに関する文献は多くないので、個人で理解を深めるのは難しい… というわけで、担当学芸員の大谷省吾さん(美術課長)にお時間をいただき、お話を伺ってきました。 情報へのアクセスが限られるからこそ、教えていただいたことを全部記事にしたい。 文章が長くなるので、前後編に分けて紹介したいと思います。 前編では、絵画に込められた意味について、分かる範囲で解説していきます。
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北脇昇《綜合と分析》1940年 東京国立近代美術館
北脇さんの美術を制作順に見ていくと、 ある程度の分かりやすさを持った見立ての作品 ↓ 数学や易の知識をベースにした作者にしか分からない作品 と移り変わっていきます。 作家の中で考えが深まって、いつの間にか他の人には意味の分からない境地を開いていく感じでしょうか。 この流れを押さえて見ていくと、作風の変化をすっと受け入れられると思います。
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北脇昇《空港》1937年 東京国立近代美術館
初期の頃は、シュルレアリスム的な見立ての絵画が描かれます。 例えば、《空港》や《空の訣別》では、飛行機が描かれていますね。
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楓の種子の展示
この飛行機、なんと楓の種そのものの形をしているんです! 北脇さんが楓の種からイマジネーションを膨らませ、戦闘機として表現したものと思われます。
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北脇昇《空の訣別》1937年 東京国立近代美術館
《空の訣別》で墜落機から上がる炎は、人間の手のよう。 これは当時、美談として伝えられたエピソードが元になっているそうです。 日中戦争のとき、中国に爆撃に行った飛行機が1機撃ち落とされてしまいます。 操縦士はパラシュートで逃げることもできたかもしれないのですが、ハンカチを振って仲間に別れの合図をして落ちていきました。
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北脇昇《借景(観相学シリーズ)》1937年 東京国立近代美術館
《借景(観相学シリーズ)》もとっても面白い作品です。 そびえ立つ山と、遠い満月…のように見えるのですが… 手前の山に見える物、かぼちゃですからね! 断面の形や種に気づくと、もうかぼちゃにしか見えなくなっていて。 さっきまで山に見えていたあの感覚はどこに行っちゃったんだろう、と戸惑います。
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展示風景
実家の広い庭にたくさんの種類の植物があったことから、北脇さんは植物に関心があったし、絵のモデルも手に入りやすい環境でした。 ちなみに、《最も静かなる時》に描かれている葉っぱのモデルも、北脇さんが暮らした廣誠院の庭の樹木カクレミノの葉です。 共に展示されている実物の葉っぱも、廣誠院で採取されたもの。 絵のモデルと同じ樹木の葉っぱかもしれませんね。
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展示風景
拾った枝を銃に見立てることもあり、その枝も今回展示されています。 枝が残っていることも凄いですよね。 普通は誰かが捨ててしまうと思います。 絵と本物を見比べられるのも、本展の面白さの1つですね。
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展示風景
次に登場するのが、モチーフを人間の顔のように配置したシリーズです。 わざわざ油絵にするか!?ってツッコミを入れたくなってしまう。 北脇さんとしては、自然の混沌の中にも、顔面の左右対象のような秩序もあることを表現したかったそうです。
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北脇昇《影(観相学シリーズ)》1938年 東京国立近代美術館
自然科学や数学、色彩論にも詳しかった北脇さんの絵画は、この辺りから複雑さを極めていきます。 本人の中では論理が通っているのだと思いますが、他の人がすべて汲み取るのは無理なレベルまで極まっていくのでした。
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北脇昇《(A+B)2意味構造》1940年 東京国立近代美術館
作図のような《(A+B)2意味構造》には、「ピタゴラスの法則」が用いられています。 直角三角形の辺の長さの法則で、斜辺の2乗が、他の2辺それぞれの2乗の和になる法則ですね。 絵画中では、 赤線の2乗+青線の2乗=紫線の2乗 として表現されています。 濃淡の異なる線がたくさん描かれており、それぞれの濃さの線どうしでこの法則が成り立っている…と思われます。 (実際の絵画平面は線の太さがあるため、厳密に法則が成立しているとは言い切れません) しかもこの作品、3つの辺に対応して植物の種→芽→花と成長過程も描かれているんですね。 種→芽→花→種→芽→花→…と循環する生命も重ねられているようです。 その上、紫線の周りが黄色かったり、緑の葉っぱの周りが赤かったり、補色を巧みに用いているので、写真で見るより鮮やかで輝いているような絵なんです。 色彩論にまで踏み込んでおり、北脇科学のすべてが1枚に込められているのでは…と思います。 本人もこの絵の制作において、ひらめきと興奮があったそうです。
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北脇昇《周易解理図(八掛)》1941年 東京国立近代美術館
この後の作品は、古代中国の自然の見方である「易」をベースにしており、もう私には全く分からなくなっていきます。 易とは、万物を陰と陽に分け、その組み合わせで自然の変化を説明するもの。 現代から見れば占いといったところです。 北脇さんは易の考えを引用し、天と地の巡りを表現したようです。 横棒を3本ずつ組み合わせで陰陽が表されており、暖色が陽、寒色が陰。 陰の横棒は、真ん中で途切れています。 色分けはゲーテの色彩論の考えに由来しているらしいです。 すでに1枚の絵に色彩論と易の2つの考えが乗っており、意味が渋滞しています…。 もしかしたら、すでに発覚している以上の意味を北脇さんが込めているかもしれないですし、ロマンがありますね。
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北脇昇《周易解理図(乾坤)》1941年 東京国立近代美術館
さらに、植物学も引用し、地上の成長(茎や枝など)を陽、地下の成長(根)を陰で表しています。 陰と陽を隔てる線はキャンバスの端に近くに従って薄く消えて行きます。 両者がバツッと分かれるのではなく、ぐるぐると循環することで、社会が上手く回ることを表現しているのでしょう。
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展示風景
以上、見立ての絵画から哲学や概念の絵画に変化していく過程を見てきました。 初見で奥深さに気づくのは難しいと思うのですが、上記を踏まえると絵画の向こう側にいる北脇さんの表情が見えてくる…。 そんな気がしませんか? どの段階でも、理詰めで冷静な表現をされていると感じました。 しかし戦争中に描かれた絵も多いので、感情を抑えた理性的な表現は逆に興味深いところです。
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北脇昇《クォ・ヴァディス》1949年 東京国立近代美術館
後編では、最後の油絵となった《クォ・ヴァディス》と、北脇作品の世界に惹かれる理由について、私なりに紹介していきます。 後編はこちら! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:コレクションによる小企画 北脇昇 一粒の種に宇宙を視る 会場:東京国立近代美術館2階 ギャラリー4(竹橋) 会期:2020年2月11日(火・祝)-6月14日(日) 休館日:月曜日[ただし2月24日、3月30日、5月4日は開館]、2月25日(火)、5月7日(木) 開館時間:10:00-17:00(金・土は10:00 ─ 20:00)※入館は閉館30分前まで 所要時間:1時間 観覧料:一般は500円 公式HP:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kitawaki2020

関連情報

ポーラ美術館『シュルレアリスムと絵画』展にも、北脇さんの作品が数点展示されています。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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