『北脇昇 一粒の種に宇宙を視る』主観レビュー 後編。

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展示風景
引き続き、東京国立近代美術館のコレクションによる小企画『北脇昇 一粒の種に宇宙を視る』を基に、北脇昇さんの美術について紹介していきます。 シュルレアリスムの枠に収まらない彼の各作品を読み解くヒントについては、前編でお話ししました。 後編では、私の主観を加えつつ北脇作品の奥深さを紹介していければと思います。
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北脇昇《秩序混乱構造》1940年 東京国立近代美術館
図形や易の記号が異彩を放つ絵画は、第二次世界大戦の時代に描かれています。 現代ではなく戦時中に描かれていることに驚きますよね。 自由な表現がやりにくかったから、暗号的な表現になったのかな…などと深読みすることもできます。
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北脇昇《文化類型学図式》1940年 東京国立近代美術館
北脇さんは家柄も良くコミュニケーションも問題無かったので、周囲の人には信頼されており、町内会の会長を務めるほどでした。 作品からも頭脳明晰さは伝わってくるので、器用な人だったのかなぁ、なんて想像しました。 そうは言っても、東京で知り合いが捕まるなど弾圧を近くに感じてはいたそうです。 目をつけられないように、でも考えを表現しないと、などの葛藤があったのではないでしょうか。
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北脇昇《クォ・ヴァディス》1949年 東京国立近代美術館
《クォ・ヴァディス》は 戦後の日本美術の文脈で紹介されることが多いので、おそらく北脇さんの作品の中で最も有名ではないかと思います。 戦争から帰ってきた兵隊が、今後どの方向に進むべきなのか、途方に暮れている絵と解釈されることが多いです。 左のデモ隊の方か、右の暗雲立ち込める都市か。 ただしこれも一筋縄では理解できない絵です。 中央の人物は本を持っているので、兵隊ではない可能性もあります。 左下の巻貝は影の向きが他のものと異なるので、なぜここにあるのか…分からないです。 正解についてはさておき、絵を見ているといつのまにか自分を重ねて合わせてしまいませんか? 中央の人物に自分を重ねられるところが面白いのです。 上半身は左側に吸い寄せられているけれど、全体的にはどちらとも言えない姿勢。 真っ直ぐ姿勢良く立っていたら、ここまでの迷いは感じられなかったでしょう。 リアルな迷いだからこそ、私たちは彼に自分を重ね、体をプルプルさせるのでは。 実際は戦後の労働運動に加わっていたため、結果論では左に進んだことになります。 ですが、「クォ・ヴァディス(あなたはどこへ行くのか?)」は新約聖書の中でペテロがキリストに言ったセリフでもあり、キリストが進んだ道を踏まえると苦難の右に進むと解釈できる…といった考え方もあります。 とにかく、向き合うことで色々と考えを巡らせることができる作品です。 「社会はどうあるべきか」「自分はどうするべきか」と迷うシーンは現代にもたくさんあるので、絵の中の人物の迷いが痛いほど分かって切なくなります。 《クォ・ヴァディス》を描いたあと、北脇さんは肺結核で入院して亡くなるので、油彩では最後の作品となりました。 展覧会も本作で締め括られ、見る人に納得感を与えるだけでなく、未来への問いを痛切に感じました。
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北脇昇《(A+B)2意味構造》1940年 東京国立近代美術館
北脇作品の良いところは、理論的すぎるところだと思います。 丁寧に見ていけば、一定の主張は理解できる。 それでも謎が残るので、絵画への疑問が自分への問いとして跳ね返ってくる。 絵を見ることで自分の思考を整理できる気がするのです。
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北脇昇《空の訣別》1937年 東京国立近代美術館
1930年代から40年代に描かれた作品ですが、現代社会の問題に置き換えて捉えることもできると思うんです。 抽象的な理論を表現した絵画ならではです。 北脇さんはシュルレアリスムの日本人画家、と紹介されることが多いのですが、これまで見てきたように、その枠には到底収まっていないですよね。 どのジャンルとも言えない、彼しかやらなかった独自の表現があります。
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北脇昇《樹の根と芽》1937年 東京国立近代美術館
色々語ってきましたが、北脇流の理論を反映した絵画は謎に満ちていて、解明できる部分・未解明の部分の両方があります。 整然とした理論の中に未解明の部分があることで、私たちは想像をかき立てられるのではないでしょうか? 北脇昇さんと作品についてもっと知りたい! と思った方は、ぜひ大谷さんのトークや講演会に足を運んでみてくださいませ。 ■キュレータートーク 5月8日(金)18:00-19:00 担当研究員:大谷省吾(美術課長・本展企画者) 場所:東京国立近代美術館2階 ギャラリー4 申込不要・参加無料(要観覧料) ■講演会「北脇昇の絵を読み解く」 5月16日(土)15:00-16:30 講師:大谷省吾(美術課長・本展企画者) 場所:東京国立近代美術館 地下1階講堂 入場無料・申込不要(先着140名) 詳細は公式ホームページで⇒https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kitawaki2020
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そうそう、北脇さんのデッサンが、村上春樹さんの短編集『神の子どもたちはみな踊る』の扉絵にも使われているってご存知でしたか? 表紙は《空港》ですね。 出版社からではなく、村上さんの希望で北脇作品を使ったとのこと。 扉絵になった植物のデッサンも、本展でたくさん展示されています。 図鑑のように忠実に描かれていますが、それが非現実的な北脇作品に取り込まれていくことを踏まえると、普通の植物に見えなくなってきて面白いです。
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展示風景
…と、前後編に分けて北脇昇さんの作品を紹介してきました。 少しでも興味を持っていただけたら嬉しいな、と思います。 確かに理論的すぎるところがあり、のびのびとした感情的な絵画とは違う性質があるのですが、それゆえの面白さがありました。 他に類を見ない画家なので、40点ほどまとめて見られるこの機会を逃さずご覧くださいませ。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:コレクションによる小企画 北脇昇 一粒の種に宇宙を視る 会場:東京国立近代美術館2階 ギャラリー4(竹橋) 会期:2020年2月11日(火・祝)-6月14日(日) 休館日:月曜日[ただし2月24日、3月30日、5月4日は開館]、2月25日(火)、5月7日(木) 開館時間:10:00-17:00(金・土は10:00 ─ 20:00)※入館は閉館30分前まで 所要時間:1時間 観覧料:一般は500円 公式HP:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/kitawaki2020

関連情報

前編では、北脇作品に込められた意味について、可能な限り解説しました。 ポーラ美術館『シュルレアリスムと絵画』展にも、北脇さんの作品が数点展示されています。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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