『VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─』主観レビュー。

今年もVOCA展が始まりました! VOCA展は40歳以下の作家による平面の作品が集まる展覧会です。
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金サジ《女たちは旅に出、歌と肉を与えた》
VOCA展が面白いのは、平面という共通点以外に、「新作」でもあることでしょうか。 全国の美術館学芸員、キュレーター、研究者などの推薦で、依頼を受けた作家が新作を制作し、VOCA展で公開する流れなので、オール新作という面白さがあるんですね。
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高山夏希《World of entanglement 2020》
今回は33作家が参加し、VOCA賞が1名、VOCA奨励賞が2名、VOCA佳作賞が2名となりました。 とはいえ、甲乙でない魅力がある展覧会なんですよー!
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山口麻加 (左から)《面をひらく(星/オリオンとスコーピオンをつなぐ)》《面をひらく(星/地点cと地点gをつなぐ)》《面をひらく(星/透過する座標)》
例えば、会場に入ってすぐのところにある山口麻加さんの作品群。 紙に「版」をプレスして、凹凸がつけられた作品です。
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山口麻加《面をひらく(星/オリオンとスコーピオンをつなぐ)》
紙を折ったように見えるところ、シールを貼っているように見えるところがあるのですが、それらもプレスによる凹凸なんです。 立体ではないけど、1枚の紙が前や後ろに少しだけ余白を持ったような感じがするんですよね。 2次元に触れそうで触れない、くらいの距離感が、繊細で優しいです。
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藤城嘘《Lounge of earthly delights / Oruyankée aux Enfers》
藤城嘘さんの作品は、ヒエロニムス・ボスの《快楽の園》という絵画を下敷きにしていました。 《快楽の園》は3つのパネルから成る三連画で、左から「地上の楽園」「快楽の園」「地獄」とされています。 地上の楽園ではアダムとイヴが出会い、地獄はその原罪の処罰として描かれています。 間に挟まれた「快楽の園」は、みだらな欲求や誘惑の罪深さを描き、警鐘を鳴らしている…と解釈されることが多い作品です。
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藤城嘘《Lounge of earthly delights / Oruyankée aux Enfers》(部分)
藤城さんの作品は《快楽の園》だけでなく、近現代の美術のオマージュも取り込んでいます。 太陽の塔やバスキアがよく描いた骸骨や王冠のモチーフ、ひらがなの「ばんくしー」など、探せば色々と気になるものが見つかります。 中世から現代に至るまでの哲学を包含しているように見えました。 天国と地獄の感覚は、私たちにどんな風に染み付いているのか、そして現代の天国と地獄とは…など色々考えることができます。 近年の大災害を地獄に重ねることもできると思います。
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菅実花 (左から)《A Happy Birthday》《#selfiewithme》
菅実花さんの作品は、双子のように瓜二つの女性の写真と、2人のセルフィーをスライドショーにした映像です。 双子のように見えますが、片方が作家本人、もう片方は自分の顔を型取りして作った人形です。
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菅実花《#selfiewithme》
菅さんの代表作といえばラブドールを妊娠させた作品で、大きな話題になったので知っている読者さんも多いかも。 今回は「自分と瓜二つの人形」を扱った作品です。 両方とも人間に見える瞬間も、両方とも人形に見える瞬間もあるので、生命と非生命の線引きを考えてしまいます。
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木村宙《TYPE64 7.62×51mm NATO 〜銃ハ撃ッタコトガアルガ、人ハ撃ッタコトハナイ〜》
木村宙さんの作品も面白かったです! 衣服の真ん中に黄色い的がプリントされた作品です。 本作には木村さんが自衛隊に在籍していた頃の経験が反映されており、「実際に人を撃ったら、撃たれたらどうなるか」という問いが制作の動機になっているそうです。
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木村宙《TYPE64 7.62×51mm NATO 〜銃ハ撃ッタコトガアルガ、人ハ撃ッタコトハナイ〜》
さまざまなサイズがある赤いTシャツは、訪れた人が自由に持ち帰って良いと書かれていました。 このTシャツを着るとき、人は的になるのです。 ドラマで警察官が射撃の練習をするシーンで登場するような、無個性な的を想起してしまいました。 訓練で「撃つこと」と戦場で「撃つこと」の違いとともに、「撃たれること」についても考えられる作品だと思いました。 要人の暗殺などは別ですが、戦地で撃たれる名もなき人を想起するというか…
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増田将大《Moment' #37》
数作品しか紹介できませんでしたが、こんな風に、2020年のVOCA展も現代の社会を反映した作品が揃っています。 毎年見るべき現代美術展の1つだなぁ、と今回も確信しました! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:VOCA展2020 現代美術の展望─新しい平面の作家たち─ 会場:上野の森美術館(上野) 会期:2020年3月12日(木)-3月30日(月) 休館日:会期中無休 開館時間:10:00-18:00(入館は閉館の30分前まで) 所要時間:1時間 観覧料:一般は600円、大学生は500円、高校生以下は無料 公式HP:http://www.ueno-mori.org/exhibitions/main/voca/2020/

関連情報

2019年のVOCA展の様子はこちら! 作品写真を紹介した増田将大さんの作品は、銀座シックスでの個展のときに詳しく紹介しました。 三菱一号館美術館の『画家が見たこども展』では、ヨーロッパで子供らしい子供が描かれるようになった頃の絵が展示されています。 東京国立近代美術館のピーター・ドイグ展は、現実と非現実の狭間のような絵画による不思議な世界観を味わいました。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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