猪瀬直哉 個展「Romantic Depression」 主観レビュー。

猪瀬直哉さんの個展「Romantic Depression」に行ってきました。 2018年に日本での初個展が行われたTHE CLUBで開催されています。
FullSizeRender
《Melancholia》2020年
アイスランドの景色を基にした風景画や、ペンギンがぽつんと佇む絵画、昔のテレビで放送が無くなる深夜の時間帯によく見られたカラーバーなど、さまざまなモチーフで終末を表現されています。
FullSizeRender
《Romantic depression》2020年
中でも、《Romantic depression》は作家の問いを凝縮した作品だと思います。 文明が消滅した後の世界のような風景ですが、アイスランドでのリサーチを基に描かれたもので、実際にこのような景色なのだそうです。 人間が入らない場所の中には、他の生命にとっても厳しい場所があるんですね。 白い塔のようなものはキューブリックの映画『2001年宇宙の旅』のモノリスからの引用で、知恵の象徴のようなもの。 ボロボロになったモノリスは、自然に太刀打ちできない人知を表現しているように感じられます。
FullSizeRender
《I trust you》2020年
猪瀬さんの作品には、ペンギンもよく登場します。 翼があるのに飛ぶことができないペンギンの特徴を、教育水準が高く世界に出て活動できる知恵があるはずなのに、世界に羽ばたききれない日本人に重ねて表現しているそうです。 平穏なプールと共に描かれることが多いのも、波風立たない場所を好む日本人に重ねているそうです。 猪瀬さんはロンドンに留学し、現在もロンドンを拠点に活動しているので、国民性の違いを敏感に感じ取っているのだと思います。
FullSizeRender
《Already asleep when a storm is coming》2020年
カラーバーも、終末感のあるモチーフです。 私も子供の頃、夜更かししてテレビを見ていたとき、放送終了後に出てくるカラーバーにえも言われぬ恐怖がありました。 しかも、「ピーーーー」と抑揚の無い音が流れるのも怖いですよね。 いつ終わるのか分からないので、永遠の死に感じられました。
FullSizeRender
展示風景
ところで、風景画やカラーバーの作品は2018年の個展でも拝見したのですが、両者が1つの画面に現れた作品は今回が初めてです。 この2作品、今回見た作品の中で一番グッと来ました!
FullSizeRender
左から《Noisy dream》2020年/《Color dream》2020年
例えば、風景画からは雄大な自然とちっぽけな人間社会、カラーバーからは物語の終末と永遠の眠りを読み取ることができると思います。 これらが1枚のキャンバスの中で合わさることで、別の意味が生まれたように感じられました。 1人の人間の目に映る景色が終了し、カラーバーに変わる瞬間を映しているようです。 自分の限界や死を直接イメージしてしまいました。 自然や社会といったスケールの大きいものや、テレビ番組の終了など客観的なものでなく、自分の視界が終了して死に至る瞬間を感じたのです。 本作は、見る人により密接に訴えかける力があると思います。
FullSizeRender
展示風景
今回の個展は、偶然にも新型コロナウイルスの脅威に世界が脅かされている時期に重なっての開催となりました。 今、経済がコロナショックと言われる状態に陥っており、人間が築いた高度で複雑な社会の脆さが露見しています。 猪瀬さんの絵画を見るときも、この現状を投影せずに鑑賞することは…難しいと思いました。
FullSizeRender
《Heaven》2020年
生きている以上、死ぬリスクを常に背負っているのです。 私たちは何に希望を見出したら良いのか…猪瀬さんの絵画を通して向き合えるのではのいでしょうか。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:猪瀬直哉 個展「Romantic Depression」 会場:THE CLUB(GINZA SIX 6F 銀座 蔦屋書店内) 会期:2020年3月14日(土)-5月9日(土) 開廊時間:11:00 - 19:00 所要時間:30分 観覧料:無料 公式HP:http://theclub.tokyo お問い合わせ:03-3575-5605, info@theclub.tokyo 公式インスタグラム:https://www.instagram.com/theclub.tokyo/

関連情報

2018年の個展の風景はこちら! 上野の森美術館のVOCA展でも、若手現代アーティストの作品を見ることができました! 三菱一号館美術館では、ナビ派を中心に子どもを描いた作品が見られます。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
読者登録していただくと、LINEに「アートの定理」の更新情報が届きます! 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
にほんブログ村