『もつれるものたち』主観レビュー。

東京都現代美術館で開催されている展覧会『もつれるものたち』に行って来ました! 国内外の12人/組のアーティストが参加する展覧会です。
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トム・ニコルソン《相対的なモニュメント(シェラル)》(2014 -2017)ニュー・サウスウェールズ州立美術館蔵
本展はパリとサンフランシスコを拠点とするカディスト・アート・ファウンデーションとの共同企画展。 カディスト・アート・ファウンデーションは、作品を通した社会的な問題提起などを行う組織です。
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ジュマナ・マナ《貯蔵(保険)》(2018-2019)
本展で見られる作品は、どれも重要な現代の問題に根差した作品です。 作品の背景を理解することで、非言語のメッセージを受け取ったり、自分の問題として考えたりできるので、とても刺激的な展覧会でした。 3点紹介していきますね。
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ピオ・アバド《ジェーン・ライアンとウィリアム・サンダースのコレクション》(2014 -2019)
《ジェーン・ライアンとウィリアム・サンダースのコレクション》は、絵画のポストカードが並べられた作品。 絵画は第10代フィリピン共和国大統領フェルディナンド・マルコスと妻イメルダが所有し、その後フィリピン政府に差し押さえられたものです。 カードの裏面には、政権の汚職や美術界・政界における彼らの巨大なネットワークをほのめかす内容が書かれています。 作品タイトルの「ジェーン・ライアン」「ウィリアム・サンダース」は、夫妻がスイス銀行の口座名に使っていた偽名だそうです。
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ピオ・アバド《ジェーン・ライアンとウィリアム・サンダースのコレクション》(2014 -2019)より持ち帰ったポストカード
この作品は、次のように段階を踏んで作品の見方が変わって面白かったです。 ①夫妻がどんな絵を持っていたのかと眺める ②裏面に書いてあることが気になり、裏返して読む ③どのポストカードを持ち帰ろうか吟味する ④持ち帰ってもう一度眺める よく美術館に足を運ぶ人は、ショップでポストカードを選ぶことも多いと思います。 私たちにとって「よくある行動」が、権力のトップから民衆への美術品の返還として表現されるのも興味深いです。
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リウ・チュアン《ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング》(2018)
《ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング》は、3面の映像作品です。 ビットコインの取引はコンピューターで記録されるのですが、膨大な計算が必要なので、有志のコンピューターを借りて行われます。 リソースを貸した人には見返りとして新規発行のビットコインが支払われる(=採掘)ので、採掘自体がビジネスになり得るんですね。
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リウ・チュアン《ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング》(2018)
で、本作は中国の民族や自然、環境とともに、各所で行われるビットコインの採掘を映した映像作品です。 採掘に使うコンピューターのファンの音がうるさいため、水力発電所の近くなど大きな音がする場所を選んで移動する、遊牧民のような暮らしなどが描かれていました。
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リウ・チュアン《ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング》(2018)
私自身もビットコインの取引は多少やっているので、本作はすごく身近に感じられました。 ビットコインを買った・売ったの数値と見なしているのですが、大元は中国の水力発電所の近くにあったのだなぁ…などなど。 環境破壊や資本主義はもちろんのこと、地球上に生きる1人1人の思惑がもつれあって現在ができていることを思いました。
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藤井光《解剖学教室》(2020)
藤井光さんの《解剖学教室》は、映像と民具や化石などの展示物で構成された作品。 展示物は、福島第一原子力発電所の事故の後、帰還困難区域にある資料館から避難したままとなっているものです。 映像で語られるのは、登壇者たちが空っぽの資料館を訪れたときのことです。 学芸員は、その場に展示品があるかのように解説を行ったそうです。
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藤井光《解剖学教室》(2020)
地震や洪水といった自然災害だけでなく、事故や戦争、今回の新型コロナウイルスのようなパンデミックによっても、人類の記録は失われていきます。 最近、社会が高度に発達すればするほど、1回の打撃で失うものが多いことを痛感しているので、過去の引継ぎの必要性と難しさの釣り合いに共感しました。
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藤井光《解剖学教室》(2020)
藤井さんは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため東京都現代美術館が臨時休館していたとき、展示室内を撮影した映像作品《COVID-19 May 2020》を制作しています。 暗がりで見に来る人を待つ作品の姿に、展示の機会が失われることの損失の大きさを実感しました。
こうして展覧会を鑑賞していると、1本の人類史が無数の細い糸のからまりに見えてきました。 歴史の見方は立場によって異なり、そこから真実を探す難しさ、70億人が等しく幸福になる難しさにつながっていくように思います。
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磯辺行久《不確かな風向》(1998)
歴史の研究者が新たな資料を見つけたり、新たな解釈を提示したりすれば、歴史の見方が変わることがあります。 名探偵シャーロック・ホームズや明智小五郎が、複雑に重なり合った事実を丁寧に剥がし、真実を詳らかにするように。
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岩間朝子《ピノッキオ》(2020)
ただし、事実に基づいた修正がある人にとって都合が良く、ある人にとって都合が悪いとなれば、争いが起こります。 新資料に基づいた新解釈なのに、悪名高く「歴史修正」と非難されることは、国内外で起こっています。 反対に悪意に基づいて事実をねじ曲げれば、悪い意味での「歴史修正」になることも。
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ピオ・アバド《栄華》(2019)(全8点のうち5点を展示)
先ほど「人類史が細い糸のからまりに見えてきた」と言いましたが、真実と捏造のからまりにも見えてくるのです。 学校で習った知識が否定されたとき、私は柔軟に受け入れることができるのか、問われているようにも感じる展覧会でした。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:カディスト・アート・ファウンデーションとの共同企画展 もつれるものたち 会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F(清澄白河) 会期:2020年6月9日(火)-9月27日(日) 休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日 開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) 所要時間:1.5時間 観覧料:一般は1300円 公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/kadist-art-foundation/

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地球環境やエコをテーマにした作品で注目されている現代アーティスト、オラファー・エリアソンさんの個展も東京都現代美術館で開催されています! 同じく東京都現代美術館では、線に注目した展覧会『ドローイングの可能性』が開催されました。 王道の西洋絵画展もどうでしょうか? 日本初来日の作品がたくさんあるロンドン・ナショナル・ギャラリー展は、国立西洋美術館で開催中です! YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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