『和巧絶佳展 令和時代の超工芸』主観レビュー。

パナソニック汐留美術館で『和巧絶佳展 令和時代の超工芸』が開幕しました! 昔からある伝統技法を継承しつつ、新たな発想によってアップデートされた、工芸の枠組みを超えた作品が集結しています。
FullSizeRender
見附正康 作品展示風景
最近では「超絶技巧」と称されることも多くなってきた、作家の巧みな技術。 出展作家さんは以下の12名(敬称略)。  安達大悟  池田晃将  桑田卓郎  坂井直樹  佐合道子  髙橋賢悟  舘鼻則孝  新里明士  橋本千毅  深堀隆介  見附正康  山本茜 全員を紹介するには文字数が足りないので、この記事では3名の作家を紹介します。
FullSizeRender
深堀隆介《百舟》(2018年) 刈谷市美術館
深堀隆介さんは、升や桶の中の金魚を立体的に表現したリアルな「2.5Dペインティング」の作品を作っています。 器の中に透明な樹脂を少しだけ流し込み、アクリル絵具で金魚の一部を描き、また樹脂を流し込み… と繰り返して作ることで、水の中を泳ぐ金魚が立体感を持っています。
FullSizeRender
深堀隆介《百舟》(2018年)(部分) 刈谷市美術館
生きている金魚の時間を止めたようなんですよね… 縦方向に伸びる水草もとてもリアルで、樹脂上の平面のペインティングが重なっているとは思えません。
FullSizeRender
山本茜《源氏物語シリーズ第十九帖「薄雲」(雪明り)》(2011年) 中谷宇吉郎 雪の科学館
山本茜さんは、截金をガラスに閉じ込めた作品を作っています。 金箔や銀箔を使って装飾する截金という技法は、飛鳥時代に仏教の伝来とともに日本に伝わり、主に仏像や仏画の装飾に使われてきました。 山本さんは截金を装飾ではなく主役となる表現を探り、ガラスの中に封じ込めることを思い立ったそうです。 仏像や仏画の装飾はいつか剥がれ落ちますが、ガラスの中の截金は永遠にキラキラと輝き続けます。
FullSizeRender
山本茜《渦》(2020年) 作家蔵
魔力がこもっているようにしか見えないですね…人間界にはもったいない完璧さです。 ここがファンタジーの世界だったら、ドラゴンに堅く守られて近づけないですよ。
FullSizeRender
髙橋賢悟《flower funeral -goat-》(2019年) 個人蔵
髙橋賢悟さんは、生花を型にアルミで花を鋳造し、アルミの花によって人間や動物の頭骨を作っています。 わずか0.1ミリの薄さしかない部分もあり、作家の研究や素材のたくましさに慄くばかり。
FullSizeRender
髙橋賢悟《flower funeral -goat-》(2019年)(部分) 個人蔵
新作はアダムとイヴ、そして真実のリンゴをモチーフにしています。 リンゴは二口かじられており、アダムとイヴが一口ずつ食べたのか、はたまた本作を見ている現代人が一口食べたのか。 真実のリンゴをめぐって、いろいろな想像や皮肉な見方ができるでしょう。
FullSizeRender
髙橋賢悟《Second forbiddance -Adam-/-Eve-/-truth》(2020年) 靖山画廊
さて、言うは易く行うは難し。 技法の解説を読めば論理では理解できますが、至高の美術品になるには、作家の途方もない努力と美意識があってこそです。 髙橋賢悟さんの作品はこちらの記事で詳しくレポートしました。 本展で見られるのは、「極み」と表現したい作品ばかり。 一点の曇りも無い美意識が、誇り高いアイリスのように凛と立っていました。
FullSizeRender
舘鼻則孝 作品展示風景
興味深かったのが「生と死」をテーマにした作家さんが何名かいらしたことです。 現代の日本では命を脅かされる危険がそうそう無く、歴史上で最も安全が保証されている時代だと思うのですが、それでも「生と死」がテーマになるのですね。
FullSizeRender
桑田卓郎 作品展示風景
つまり、一口に「生と死」と言っても、文字通りの生存・死亡が問題なわけではありません。 医学の進歩などのため長寿化していく中、私たちはどう生きて、どのように生をまっとうするのか、何を成し遂げて死んでいくのか。 展覧会を鑑賞しながら、そう問いかけられているようにも感じました。
FullSizeRender
池田晃将 作品展示風景
科学がどれだけ進歩して社会や健康の課題を解決しても、「生と死」は永遠に課題であり続けるはず。 どう生きるかの課題と切り離せない作り手や表現者の思いも、永遠につながっていくのだろうと思いました。
FullSizeRender
佐合道子《をだまき》(2020年) 作家蔵
本展の「和巧絶佳」は造語で、現在の日本における工芸的な作品の3つの傾向を組み合わせた言葉だそうです。 「和」は日本の伝統文化、「巧」は手わざの極致、「絶佳」は素材の美の可能性を探ること。
FullSizeRender
橋本千毅《螺鈿“鸚鵡”》(2018年) 個人蔵
日本の工芸の未来を見るとともに、それだけではなく「生と死」の大きなテーマも感じられる展覧会でした。 命の儚さや頑丈さをも、作品が照らしているように感じられました。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加

展覧会基本情報

展覧会名:和巧絶佳展 令和時代の超工芸 会場:パナソニック汐留美術館(新橋) 会期:2020年7月18日(土)~9月22日(火・祝) 休館日:7月22日(水)、8月12日(水)~14日(金)、8月19日(水)、9月9日(水)、9月16日(水) 開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)、9月4日(金)は20:00まで(入館は19:30まで) 所要時間:2時間 観覧料:一般は1000円 公式HP:https://wakozekka.exhibit.jp

関連情報

深堀さんの作品集。 会場のショップでは、各作家さんの作品集も取り扱われていました。 2018年の平塚市美術館で開催された『金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋』にも行っていました。 昔のなので非常につたないしプロ意識に欠ける文章ですが、そのときのレポートはこちら。 髙橋賢悟さんの作品を見たのは、2017年に三井記念美術館で開催された『驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-』のことでした。 こちらも趣味ブロガーの頃の記事なのでプロ意識に欠けていますが、当時のレポートはこちら。 六本木の森美術館でSTARS展が開幕しました。 草間彌生さん、村上隆さん、奈良美智さんなど世界に通用する現代アートを一気に見られるレアな展覧会です! YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
読者登録していただくと、LINEに「アートの定理」の更新情報が届きます! 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
にほんブログ村