『和巧絶佳展 令和時代の超工芸』髙橋賢悟さんの作品 主観レビュー。

「ブログ記事で魅力を伝えきれていないな…」と思う展覧会があるので、補足の記事を書いても良いですか? 昨日アップしたパナソニック汐留美術館の『和巧絶佳展 令和時代の超工芸』なのですけれども。 同じ時代に生きる現代の作家による技巧の極みを見られる展覧会なので、 「スゴイ~…」 「ヤバイ~…」 と、とにかく語彙が失われる見ごたえのある展覧会です。

髙橋賢悟さんによる薄さ0.1ミリのアルミの鋳造

素晴らしい技術を惜しみなくつぎ込まれた作品ばかりで、「人類にはもったいないので、神に捧げましょう」としか言えません。 中でも、2017年に三井記念美術館で拝見した髙橋賢悟さんの作品と再会できたのが嬉しく、今回も時間をかけて拝見しました。 当時のレポートがこちら。 ライターになる前の趣味ブロガーの頃の記事なので、プロ意識に欠ける文章ですが、ご容赦ください。 同じように『驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-』をご覧になり、彼の作品に驚いた方も多いのでは。 「死」を象徴する頭骨と、「生」を表現する花をアルミで表現する作家さんです。
IMG_3376
髙橋賢悟《flower funeral -goat-》(2019年) 個人蔵
頭骨を形作るお花は、生花から型を取っているのですが、これはとんでもなく難しいことです。 硬くて丈夫なものなら型を取ることもできると思いますが、柔らかくて傷つきやすいお花で型を取るなんて、信じられないことです。 そもそも、綺麗に開いた状態の生花を手に入れることだって難しいんですよ! 髙橋さん本人も、花びらの一部が折れていることも多いと仰っていました。 私は生け花を習っていたことがあるので、なんとなく分かります…枯れる寸前のお花を配られることもありました…。
IMG_3375
髙橋賢悟《flower funeral -goat-》(2019年)(部分) 個人蔵
たとえ型取りが上手にできたとしても、花びらの薄さは0.1ミリにもなります。 型の細部まで溶かしたアルミが入り込まないこともありますし、型ができればあとは簡単、というわけではないのです。 しかも、型は1回しか使えないんですよ…作品制作に膨大な時間がかかっていることが窺えます。
IMG_3438
展示風景
テレビ東京のアート番組『美の巨人たち』で、髙橋さん自身が制作過程を見せていたので、放送後記をリンクしておきますね。 https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin_old/backnumber/180901/ 少しでも取り扱いを誤ったらぐしゃっと潰れてしまうであろう、薄さ0.1ミリのアルミの花びらの繊細さをよくお分かりいただけると思います。 (超絶技巧展の作品の中で一番作り方が分からないから、という理由で取材オファーが来たらしいです)

2020年の新作はアダムとイヴと︎真実のリンゴ

今回展示されている中で最も新しいのが、《Second forbiddance -Adam-/-Eve-/-truth》です。 アダムとイヴ、そして真実のリンゴを表現した作品です。
FullSizeRender
髙橋賢悟《Second forbiddance -Adam-/-Eve-/-truth》(2020年) 靖山画廊
ぱっと見は2つの同じような骸骨とリンゴの作品ですが、本物の頭骨を参照して制作しているため、男女の頭骨の違いが現れています。 全体的な大きさや顎のたくましさ、頬骨の張り出し方、目のくぼみ方などに違いがあるので、よく観察していただければ。 中央のリンゴは、2口かじられています。
1280px-Creación_de_Adám
【参考】ミケランジェロ・ブオナローティ《アダムの創造》システィーナ礼拝堂
アダムとイヴは旧約聖書の『創世記』の登場人物で、最初の人間の男女です。 神は禁断の果実である「善悪の知識の実(リンゴ)」を食べてはいけない、と2人に命じるのですが、蛇にそそのかされて2人はリンゴをかじってしまいます。 その後、アダムとイヴは楽園を追放されるのですが(失楽園)、リンゴを食べて最初の人間が善悪を知ったため、この世に善だけでなく悪もはびこっている、という捉え方ができます。 人間が善と悪の両方の性質を持っていることを表す、良質なお話だと思います。
800px-Forbidden_fruit
【参考】ミケランジェロ・ブオナローティ《原罪と楽園追放》
髙橋さんのリンゴも同じで、2口かじられた跡があるのは、アダムとイヴが1口ずつかじったから、と捉えられるでしょう。 ただし、それだけでなく、原始の人間と現代の人間が1口ずつかじった、という読み取り方もできます。 アダムとイヴが善悪を知ったことと、インターネットの発達によって有象無象の知識が流れ込んでくるようになったことが、よく重なると思うのです。 ネットは情報の発信や収集に革命をもたらしましたが、フェイクニュースによって無関係の人が犯人扱いされ、大衆から社会的な制裁を受ける事件も発生しています。
FullSizeRender
髙橋賢悟《Second forbiddance -Adam-/-Eve-/-truth》(2020年) 靖山画廊
そして、リンゴを挟む男女の頭骨…。 死や絶望のイメージが、楽園を追われたアダムとイヴだけでなく、情報社会に飲み込まれそうになっている私たち現代人を象徴しているようにも思えます。

動物と人間の頭骨・歯の印象の違い

そうそう、2017年の超絶技巧展でも人間の頭骨をモチーフにした作品を展示されており、今回も同じ作品を拝見することができました。 新作と比べると、歯の表現が大きく変わったことが分かります。
IMG_7987
髙橋賢悟《origin as a human》 2017年 三井記念美術館『驚異の超絶技巧!-明治工芸から現代アートへ-》における展示風景
髙橋さんいわく、口のあたりがぼやけるように感じたので、歯をしっかり磨いて出したとのこと。 動物の頭骨をモチーフにした作品でも、かっこいい牙がシュッと伸びています。 ただ、課題に感じていることもあるそうです。 動物の歯は磨いて見せた方がバランス良く感じられるものの、人間の歯も同じように磨くとそこに目が行きやすくなってしまう、とのことで。
IMG_3440
髙橋賢悟《flower funeral -cat-》(2018年) 個人蔵
確かに私が見たときも、動物より人間の方が歯に目が行きやすいように感じました。 歯がむき出しになっているからなのかな…? 髙橋さんは、身近なものだから目が行ってしまうのでは、と仰っていました。

髙橋さんがこれからやりたいことを聞いてみた

プレス内覧会では髙橋さんに直接お話を伺うことができたので、今後やってみたいことを聞いたところ、次の3つのようなことを挙げていらっしゃいました。 ・大きな作品へのチャレンジ ・明治の超絶技巧とシンプルな造形の融合 ・テーマにしている「生と死」の表現の向上 2017年の超絶技巧展でも見たように、明治時代の工芸の技巧は現代人から見ても驚くものばかり。 一方、その後の工芸は工房制が無くなったこともあり、簡素な造形が多いのだそうです。 髙橋さんは両者の融合にご興味があるそうです。
IMG_3373
髙橋賢悟《flower funeral -cattle-》(2017年) 個人蔵
また、髙橋さんは「生と死」をテーマに制作しているのですが、見る人は「死」のイメージの方を強く感じ取っていることにも課題を感じているようでした。 確かに頭骨の印象が強いので、生よりも死のイメージの方が強いかもしれません。 そのため、「生」のイメージを出していきたい、とも仰っていました。
IMG_3404
展示風景
大きな作品は…相当大変だと思いますが、草の陰から応援するしかないですね。 これからも、展示機会があればお伺いしたいです! さて、出展作家の1人である髙橋賢悟さんに絞ってお伝えしてきましたが、『和巧絶佳展 令和時代の超工芸』は全部が見どころと言っても過言ではありません。 全体のレビューはこちらの記事に書いたので、ご参考くださいませ。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加

展覧会基本情報

展覧会名:和巧絶佳展 令和時代の超工芸 会場:パナソニック汐留美術館(新橋) 会期:2020年7月18日(土)~9月22日(火・祝) 休館日:7月22日(水)、8月12日(水)~14日(金)、8月19日(水)、9月9日(水)、9月16日(水) 開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで)、9月4日(金)は20:00まで(入館は19:30まで) 所要時間:2時間 観覧料:一般は1000円 公式HP:https://wakozekka.exhibit.jp

関連情報

超絶技巧の作品は、単眼鏡を使って見ると別世界が見えて面白いです。 肉眼では厳しい隅々まで見られるので、自分がアリになって作品に入り込んだように鑑賞できます。 単眼鏡の使用感はこちらでレポートしました。 六本木の森美術館ではSTARS展が開幕しました。 草間彌生さん、村上隆さん、奈良美智さんなど世界に通用する現代アートを一気に見られるレアな展覧会です! 東京都現代美術館では、『おさなごころを、きみに』展が始まりました! こどもも大人も楽しめるコンセプトですが、大人の方が夢中になってしまう気がします。 東京ステーションギャラリーのバウハウス展も興味深かったです。 学生の作品を通じて、カンディンスキーやクレーの授業がどんな内容だったのか探る展覧会。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
読者登録していただくと、LINEに「アートの定理」の更新情報が届きます! 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新の展覧会情報はこちら。 今月の展覧会 今までに行った展覧会一覧 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! インスタグラムも。 1人でアート大喜利やってます。 明菜氏のインスタ Instagram 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
にほんブログ村