『ヨコハマトリエンナーレ2020』主観レビュー:プロット48の巻。

ヨコハマトリエンナーレ2020の続編の記事です。 前回は横浜美術館についてだったので、今回はプロット48の展示について書いていきます。 横浜美術館の展示についてはこちら。 ラクス・メディア・コレクティブが挙げた、5つの重要なキーワードをおさらいしておきましょう。 ・独学:自らたくましく学ぶ。 ・発光:学んで得た光を遠くまで投げかける。 ・友情:光の中で友情を育む。 ・ケア:互いを慈しむ。 ・毒:世界に否応なく存在する毒と共存する。 世界の課題を色濃く反映する「毒」のような作品がある一方、人々を癒す「ケア」の作品もたくさんありましたね。
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プロット48
プロット48にも見応えのある作品がたくさんありました! 例えば、ピアノの自動演奏によるパフォーマンスがある作品。 上に乗っているのは夜光虫が入ったボトルで、ピアノに与えられた振動によって光ります。 パフォーマンスの時間中は撮影NGなのでお見せできませんが、ぜひ体験してほしいです! (予約不要で、時間は15分くらい)
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アンドレアス・グライナー《マルチチュード》2014年(2020年再制作)(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
パフォーマンス中は室内が真っ暗になるのですが、じわじわと目が慣れていきます。 10分経つ頃には、最初は見えなかったピアノの縁が見えるようになり、人間の体の環境への適応力を察した気がしました。 《弦より古生物へ》のタイトルのとおり、奏でられる現代音楽が古代の生物に問いかけているようで、生き物の歴史の膨大な時間を乗り越えたような作品です。 作家のアンドレアス・グライナーさん自身がYouTubeに動画を上げているので埋め込みます。 ヨコトリの展示風景ではないですが、参考までに。
音楽が激しくなっていくのは、2→4→8→16→…という細胞分裂のルールを基にしてるからだそうです。 また、夜光虫は暗闇では綺麗ですが、赤潮の原因としても知られています。 人間と自然の関わり方や、人間の利己的な自然への介入にも考えを巡らせることができます。 さらに、本作は弦を揺らすことで自然のライトのスイッチを入れている、とも言えます。 ピアノを弾くには鍵盤を照らす明かりが必要ですが、ピアノを弾くことでライトをつけているので、順番が逆転しているのも面白いです。 (ピアノ好きだから話すと長くなるね)
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
スペースを広く使って展示されたのが、「エビのためのポルノグラフィー」です。 エレナ・ノックスさんによる参加型プロジェクトで、やんわりしたポルノからエッチ極まりないポルノまでさまざまでした。 (エビのため、というか人間のためのポルノじゃないかと思った)
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
なんでエビのポルノの参加型プロジェクトがあるのか、説明していきますね。 海藻やバクテリア、エビなどを水槽に入れ、あとは太陽光があれば閉じた世界で生態系が完結する「エコスフィア」というものがあります。 しかし、その中のエビはなぜか繁殖をやめてしまうそうです。 食べるものもあり、安全に暮らせるのに、繁殖をしない、という。 繁殖しなければいずれ寿命を迎え、エコスフィアのエビは全滅しますよね。
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
この性のミステリーをテーマにしたのが、今回のノックスさんのプロジェクトです。 私の感想としては、動物のセックスって意外と繊細なんだなぁ…と。 いや分からん。 仮に人間の男女がエコスフィアに入れられたとして、子孫を残そう!繁栄しよう!セックスだ!ってなるのかな。
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
でもエコスフィアが地球の縮小板だとすると、そこでセックスするのは全然不思議じゃないわけです。 むしろ地球以外のどこでやるんだよって話です。 そもそも他の生物に「ムラムラする」という感情があるのでしょうか? と、エビ用に腕を通す輪の数が増えた拘束具を見ながらしみじみ思っておりました。
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
「AVルーム(エービールーム)」という悪ノリ感あふれる部屋では、個室ビデオのような感じで映像作品を楽しむことができます。 私が訪れたとき、VR作品は調整中だったので内容は分からないのですが、やっぱりミニスカートのエビを階段の下から見上げる感じの内容なのでしょうか?
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
ちなみに、調整中の張り紙をぼんやり見ていたとき、女性スタッフが 「そちらの作品はただいま調整中でして…大変申し訳ございません」 と丁寧に話しかけてくださったのですが、べ、別にVRが見たくて見たくて堪らなかったわけじゃないんだからねっ!
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
なお、かなり過激な映像もあったのですが、ここでは掲載しません。 展覧会の文脈で見るのと、この記事で切り取って見るのとでは意味が違ってくるので。 良識ある大人が現地で見るのが良い展示だと思います。
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エレナ・ノックス《ヴォルカナ・ブレインストーム(ホットラーバ・バージョン)》2019/2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
…さて、私が今回のヨコトリで強く感じたのが、「人間は課題にぶつかるから乗り越えることができる」ということ。 世界のさまざまな地域で起きている現在の問題を映す作品を見て、そう感じました。
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オスカー・サンティラン《チューインガム・コデックス》2019-2020(digital model by Marijn van Bekkum)(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
なぜなら、問題があるのは今だけではないからです。 過去にも色々な問題があって、それらが解決して、新たな問題が浮き彫りになって… という、人間の営みの歴史を見たように思います。
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ラス・リグタス《プラネット・ブルー》2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
ただし、人間の課題解決は単純な前進ではなく、後退や紆余曲折も含みます。 例えば、テクノロジーで課題を解決したと思ったら、実は環境を破壊していたため、それまでもてはやされたテクノロジーが悪に変わること、などです。
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イシャム・ベラダ 作品展示風景(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
だからこそ、ラクス・メディア・コレクティブが挙げた「毒との共存」が重要なのだと思います。 世界が複雑に絡み合っている中、ある問題を解決すれば別の問題が起こります。 あちらを立てればこちらが立たない状態なのです。 解決だけが道のりではなく、否応なしに存在する毒と共存できないか。 諦めではなく、ポジティブに両者が折り合いをつけること。 これが、令和らしい課題の解決なのかもしれません。
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川久保ジョイ《ディオゲネスを待ちながら》2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
どんな道になるにしろ、人間には「乗り越える」という力があることを、ヨコハマトリエンナーレ2020で感じ取りました。 特に新型コロナの脅威は現在進行形ですが、アートは「乗り越えられるはずだ」とメッセージを発しているように見えました。 コロナを直接扱った作品は少ないですが、本展の作品たちのエネルギーから、全体的にそう感じたんですよね。
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ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
ラクス・メディア・コレクティブが掲げた5つのキーワードのうち、特に分かりにくいのが「毒」ではないかと思います。 今現在の価値観だと問題を解決するのが正しいように感じられますが、毒との共存を提案しているからです。 しかし今、否応なしにコロナと共存しないといけない状況になっています。 ヨコトリの企画はコロナ前からあったはずなのに、コロナ禍にフィットする展覧会になった、とも言えるのでは。
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ファーミング・アーキテクツ《空間の連立》(部分)2020(ヨコハマトリエンナーレ2020 展示風景、展示会場:プロット48)
さて、ヨコハマトリエンナーレ2020はもう一つだけ会場がありまして。 次の記事ではその展示と、今回の特徴だった「長尺の映像作品の多さ」について考えていきたいと思います。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加

展覧会基本情報

展覧会名:ヨコハマトリエンナーレ2020「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」Yokohama Triennale 2020 “Afterglow” 会場:横浜美術館、プロット48(日本郵船歴史博物館でも展示あり) 会期:2020年7月17日(金)-10月11日(日)、毎週木曜日休場(8/13、10/8を除く) 観覧料:一般は2000円 公式HP:https://www.yokohamatriennale.jp/ ※事前予約が必要な作品があります。

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