『ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース|ダブル・サイレンス』主観レビュー。

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マーク・マンダース《4つの黄色い縦のコンポジション》2017-2019 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp, Tanya Bonakdar Gallery, New York and Gallery Koyanagi, Tokyo
金沢21世紀美術館で展覧会『ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース|ダブル・サイレンス』が始まりました! ミヒャエル・ボレマンスとマーク・マンダースという、世界で活躍する2人による展覧会は、美術館では世界で初めての開催となります。
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ミヒャエル・ボレマンス《天使》2013年 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
ミヒャエル・ボレマンスはベルギー出身・在住の作家で、絵画を多く制作しています。 日常の一コマのようではあるのですが、違和感が散りばめられており、「実はこの世ではないのでは…?」と不安を感じるところが特徴だと思います。
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展示風景
ボレマンスは写真家としての経験もある作家だからか、構図や背景の色使いに写真のセンスを感じられました。 作品から漂う静かな印象も、静止した写真を思わせます。
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マーク・マンダース《乾いた土の頭部》2015-2016 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
マーク・マンダースはオランダ出身で、現在はベルギーに住んで制作を行っています。 今にも崩れそうな、渇きかけの粘土でできたかのような彫刻を多く制作しているのですが、実はブロンズに着色して制作されています。 もろそうに見えるのに、丈夫な素材でできているというギャップが面白いです。
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マーク・マンダース《乾いた土の頭部》(部分)2015-2016 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
マンダースの作品は、展示空間全体を身体で感じる「インスタレーション」の作品です。 人物の顔や日用品をイメージさせる彫刻を、彼の「想像上の部屋」にどのように配置するのか、こだわり抜かれているのです。
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(左)マーク・マンダース《椅子の上の乾いた像》2011-2015 東京都現代美術館蔵 (右)ミヒャエル・ボレマンス《オートマト(I)》2008 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
ちなみにマンダースの作品は、私は東京都現代美術館のコレクション展で初めて目にして知りました。 さて、両者の作品に共通すると感じたのが、展覧会のタイトルにもある「サイレンス」、すなわち「静けさ」です。 2人とも人物をモチーフにした作品が多いのですが、無表情だったり、表情が隠されていたりしており、主張が分かりやすいタイプの作品ではないと感じました。 そこが静かな印象につながっているのだと思います。
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展示風景
加えて、「何が表現されているんだろう?」と徹底して鑑賞者に考えさせる作品でもあります。 どこまで考えても謎が謎を呼ぶため、謎解きの面白さもある一方で、いつまでもスッキリ解決せず、不安が鑑賞者の胸の中に居座り続けます。
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ミヒャエル・ボレマンス《赤い手、緑の手》2010 個人蔵 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
作品に潜む不安について深掘りするため、アーティストの出自から探っていきましょう。 本展のキュレーターである黒澤浩美さんにインタビューした際にも、「血に流れているものは重いので、それを無視して作品を観ることはできない」とうかがいました。 ボレマンスとマンダースの出自であるベルギー北部とオランダは北フランドルで、もともと「ネーデルラント」という一つの地方だったんですよね。 統治する側(神聖ローマ帝国、ハプスブルク家など強者)の都合により、同じ言語圏の民族が分断され、支配され、反乱や抗争が繰り返されてきました。 20世紀にはナチスドイツによる占領も経験しています。
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展示風景
こうして出自を探っていくと、彼らの描く「不安」は、先祖代々受け継がれてきたものかもしれない、と考えられます。 日本があまり経験してこなかった分断や支配の歴史を踏まえると、作品が違って見えてくるかもしれません。 一方で、観る人が同じ経験をしていなくても、自分の経験を投影して鑑賞できるのがアートの面白さでもあります。 今「不安」と言うと新型コロナウイルスの脅威が連想されやすいですが、他にも私たちはさまざまな不安に取り巻かれながら生きています。 人間関係やお金関係の経済的な心配ごと、病気や孤独死など…。
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ミヒャエル・ボレマンス《貸し付け》2011 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
私は今、死が凄く怖いです。 29歳なのでまだ人生は半分くらいは残っていると思うのですが、死ぬことを考えると胸の真ん中が空洞になって冷たい風が吹いたような感じがして、こんなに不安になるなら生まれなければ良かったのでは、とさえ思ってしまいます。 ボレマンスとマンダースの作品を観ていても、いろいろな不安を感じます。 特に、ボレマンスによる顔が隠れた人物の絵画は、自分が死んで存在しなかったのも同然になる恐怖とリンクしました。
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マーク・マンダース《乾いた土の頭部》(部分)2015-2016 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp
多くの人が、それぞれに不安を抱えて生きています。 コロナ禍だからではなく、ずっと前からそうだったし、これからもそうです。 私が死んだ後に生まれる子供たちも、きっと不安を感じながら生きていき、人類は不安から逃れることはできないと思います。 ボレマンスやマンダースと不安の源泉は違うかもしれませんが、展示される作品に興味を持てるのは、人類に共通の不安が表現されているからではないでしょうか。 文化や歴史の背景が違っても、作品を通じてアーティストと鑑賞者がつながれるのは、興味深い営みだと思います。
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マーク・マンダース《狐 / 鼠 / ベルト (建物としてのセルフ・ポートレートからの断片)》1992-1993 Courtesy: Zeno X Gallery, Antwerp, Tanya Bonakdar Gallery, New York and Gallery Koyanagi, Tokyo
今回は本展のキュレーターである黒澤浩美さんにインタビューさせていただき、現代アート展の楽しみ方を深掘りしました。 インタビューの様子は『楽活』に寄稿したので、こちらも併せてご覧いただくと、展覧会をより楽しめると思います。 本展は、ボレマンスとマンダースという、世界で活躍するアーティストの作品を日本でまとめて観られる貴重な展覧会でもあります。 不安という普遍的な共通点があり、誰もが自分のことのように関心を持って見られる現代美術展だと思うので、足を運んでみてはいかがでしょうか? Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース|ダブル・サイレンス 会場:金沢21世紀美術館 会期:2020年9月19日(土) 〜2021年2月28日(日) 休館日:毎週月曜日(ただし9月21日、11月23日、2021年1月11日は開場) 9月23日(水)、11月24日(火)、12月29日(火)〜2021年1月1日(金)、1月12日(火) 開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日は10:00〜20:00) 観覧料:一般は1000円(事前予約券)、1200円(当日券) 公式HP:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1782

関連情報

金沢21世紀美術館では、コレクション展も開催中です。 サイズの先入観や錯覚をきっかけにアートと出会える、『コレクション展 スケールス』も開催中です! 金沢にオープンした『国立工芸館』にも行ってきました。 東京から移転し、デジタル技術も導入した美術館にパワーアップしていました! YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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