『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』主観レビュー。

image
手前:エドガー・ドガ《右手で右足を持つ踊り子》1896-1911年 石橋財団アーティゾン美術館、奥:【重要文化財】俵屋宗達《舞楽図屛風》江戸時代 17世紀 醍醐寺 前期のみ展示(12月20日まで)
アーティゾン美術館で『琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術』が開幕しました! 言わずもがな人気ジャンルである西洋の印象派と、洗練された日本美術の代表格の琳派に光を当てる展覧会です。
image
左:メアリー・カサット《娘に読み聞かせるオーガスタ》1910年 石橋財団アーティゾン美術館、右:メアリー・カサット《日光浴(浴後)》1901年 石橋財団アーティゾン美術館
印象派の方は「ジャポニスム」と言って、日本の浮世絵などの影響が顕著に見られるため、日本美術と並べて展示される機会も多くなってきましたが… 「都市文化」の文脈で琳派と印象派を並列させるのは、初めての試みではないでしようか?
image
池田孤邨《青楓朱楓図屛風》江戸時代 19世紀 石橋財団アーティゾン美術館
琳派も印象派も美術の歴史において重要だし、多くの名品を残しているので、両方を同時に見られる本展はとってもお得です。 私が見どころを付け加えるとしたら、「作品が人と人とをつなぐ」という奇跡の追体験かな、と思っています。
image
宗達工房《保元平治物語絵扇面》江戸時代 17世紀 石橋財団アーティゾン美術館
その前に、琳派とは、印象派とは、をおさらいしておきましょう。 琳派は特殊で、狩野派などと違って、師匠から弟子へと直接受け継がれてできた流派ではありません。 まず、17世紀頃の俵屋宗達の絵を見た18世紀頃の絵師・尾形光琳が、影響を受けて画風を継承。 次に19世紀の酒井抱一が、尾形光琳の作品に影響を受けて継承者になろうとして、琳派の系譜が続いていきます。
image
鈴木其一《藤、蓮、楓図》江戸時代 19世紀 石橋財団アーティゾン美術館
このように、師匠が弟子に直接教えたわけでもなければ、一緒に制作したわけでもなく、作品を介してつながるのが琳派の特徴です。 宗達が描いた《風神雷神図屛風》(後期展示)と同様の構図で同名の作品を、光琳、抱一も残しており、私淑の系譜が明確になっています。
image
会場入り口には《風神雷神図屛風》のモチーフが
印象派は、1870年代を中心にパリで活動した美術運動です(印象主義、と呼ばれることもある)。 太陽の明るい光を浴びたモチーフをそのまま転写したかのような明るい画面が特徴です。 風景を素早く捉えるため、筆の跡が残っているのも特徴です。
image
左:クロード・モネ《睡蓮》1903年 石橋財団アーティゾン美術館、右:クロード・モネ《睡蓮の池》1907年 石橋財団アーティゾン美術館
印象派が登場する前はアカデミズムの絵画が主流で、本物そっくりに写実的に描くのが良い絵の条件の一つでした。 そんなアカデミーの画家からすれば、筆の跡が残った印象派の絵画は「未完成」で酷評の対象となりました。
image
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》1876年 石橋財団アーティゾン美術館
印象派の画家といえば、モネやルノワール、ドガなどです。 アカデミズムの対極のような絵画を発明してしまったため、今では考えられませんが当初は全く売れず、大衆の理解を得るのには時間がかかっています。 印象派の画家たちを評価して経済的に支えたカイユボットのことも、少し知っていただけたら…と思います(余談ですがカイユボットの絵が大好き)
image
ギュスターヴ・カイユボット《ピアノを弾く若い男》1876年 石橋財団アーティゾン美術館
印象派も面白いですが、琳派が私淑で作風を継承してきたことは、何にも勝る面白さを含んでいると思うんですよね。 そもそも、光琳が「宗達の作品に学ぼう!」と思ったきっかけについては非常に気になります。 と、私たちは無意識に光琳など「継承する側」の視点で史実を眺めがちですが、宗達など「継承される側」で想像するとゾクゾクします。 だって、宗達は光琳が引き継いでいくことを知らずに没しているんですよ?
image
手前:尾形光琳《槇楓図屛風》江戸時代 18世紀 東京藝術大学大学美術館
弟子をたくさん抱えて繁盛している流派なら、「一番弟子が継いでくれる」と未来への安心感もあるかもしれませんが… 宗達が「自分の先にも後にもない」と思って没していたのなら、奇跡の大逆転ホームランが起きています。 (工房で複数人で制作していたと考えられ、必ずしも後継者の望みが無かったとは言い切れないので、妄想気味の見解です)
image
宗達工房《保元平治物語絵扇面》江戸時代 17世紀 石橋財団アーティゾン美術館
まさか自分の作品が後世の画家に繰り返し模写され、自分が「琳派の始祖」として紹介されるなんて、1ミクロンでも考えたでしょうか? そう考えると、宗達が後世を知らずに没したことが悲しいし、恐ろしい。 今すぐタイムマシンを開発して存命の宗達な伝えに行きたい。 私は、自分が死んだ後の自分の未来を舵取りできないことに恐ろしさを感じてしまいました。 私も死んだ後、宗達のように奇跡を起こせないものだろうか。
image
ポール・ゴーガン《馬の頭部のある静物》1886年 石橋財団アーティゾン美術館
私淑に関しては、そういえば、印象派も似たようなことをやっていますよね。 歌川広重や葛飾北斎の浮世絵など日本美術がヨーロッパに渡り、印象派を始めとする画家が衝撃を受けて自分たちの作品に取り入れました。 日本人絵師が指導したわけではなく、作品から自分たちの作風に無いものを理解し、取り入れているのです。 「私淑」とまでは行かずとも、「作品から学ぶ」ことはしています。
image
展示風景
よくよく考えてみると、「先人の作品に学ぶ」ことは、美術の世界では普通に行われています。 美大のカリキュラムには、巨匠の作品の模写が組み込まれていますし。 数百年前の絵画は、現代の美術を志す人の教材にならない、なんてことはないのです。
image
中村芳中《四季草花図扇面貼交屛風》江戸時代 18-19世紀 石橋財団アーティゾン美術館
この「先人の作品に学ぶ」を繰り返してきたのが美術史であり、それこそ美術が数千年の歴史を持つ所以のように思います。 先人の作品から価値をキャッチし、その時代に特有の新しさを足してリリースし、次の時代がまたキャッチ・アンド・リリースしていく。 そんなリレーのようなやり取りが、作品を介して行われていくこと。 琳派と印象派の展示を通して、人力で受け継がれてきた美術の体系に脅威を覚えました。 (展覧会の本筋からは逸れるかもしれないけど)
image
ポール・シニャック《コンカルノー港》1925年 石橋財団アーティゾン美術館
同じことは、私たちの日常にも言えるのではないでしょうか。 私たちはここ10年か20年で発達したインターネットやSNSに揉まれ、誕生して約1年の新型コロナウイルスに翻弄されています。 なんてスパンの短い話なんだ。 人類の歴史からすれば、すべて「今朝起こった」くらい最近の出来事です。
image
手前:尾形光琳《流水図広蓋》江戸時代 18世紀 大和文華館
美術の歴史がそうであったように、昔から受け継がれてきた価値は、どんな領域にも存在しているのではないか、と感じました。 私たちは目先のあれこれに惑わされて、石のようにじっとして動かない価値を見逃しているのではないでしょうか。 そういう綺麗な石を見つけられる人間になりたい。 と、ここまで書いたとおりの紆余曲折を経て、切なる目標ができました。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術 会場:アーティゾン美術 6階、5階展示室 会期:2020年11月14日[土] - 2021年1月24日[日] ※展示替えあり ○前期:11月14日[土] - 12月20日[日] ○後期:12月22日[火] - 1月24日[日] 休館日:月曜日(11月23日、1月11日は開館)、11月24日、年末年始(12月28日 - 1月4日)、1月12日 開館時間:10:00 - 18:00 ※入館は閉館の30分前まで 所要時間:2時間 観覧料:一般のウェブ予約チケットは1700円 公式HP:https://www.artizon.museum/

関連情報

2020年11月発売の、最新の琳派入門書。 琳派は分かっていないことが多いためか、体系的な本が少ないです。 三菱一号館美術館では、『ルドン、ロートレック展』が開催されています。 東京駅を挟んでアーティゾン美術館の反対側にあります。 東京都庭園美術館では、現代アーティストによる作品が展示されています。 アール・デコの建物と現代アートの意外な関係。 東京国立博物館では、桃山展が開催中です! 狩野永徳や長谷川等伯など、日本美術の名品が一度に見られます。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
読者登録していただくと、LINEに「アートの定理」の更新情報が届きます! 弊ブログのメインコンテンツは展覧会の感想です。 最新のレビューは「アートの定理 トップページ」からご覧ください。 ツイッターでは、ブログに載せていない写真も掲載しています! 最後まで記事を読んでくださり、ありがとうございました! 良かったら応援クリックお願いします! にほんブログ村 美術ブログ いろいろな美術・アートへ
にほんブログ村