『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』主観レビュー。

東京都現代美術館で『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』が開幕しました!
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『M. バタフライ』展示風景
アートディレクター、デザイナーとして大衆に向けた新しい表現を切り開いてきた、石岡瑛子(いしおか えいこ)さんの大規模な回顧展です。 広告や映画などさまざまな仕事の成果が展示されており、権利関係が複雑な作品も多いだろうに、よくぞここまで…!という充実の内容となっています。
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『白雪姫と鏡の女王』衣装デザイン原画
石岡さんは、日本でも大きな話題になった戦う白雪姫の映画『白雪姫と鏡の女王』の衣装をデザインした方だったんですね。 この映画は衣装の造形をよく覚えていたし、ただならぬ気配を感じていました。 本展で石岡さんが衣装だけでなく、多岐にわたる仕事をしていたことを知って、合点が行きました。 他分野での経験が結晶してただならぬ衣装が出来上がったのだと感じたんです。
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展示風景
多岐にわたる仕事の一部を列挙してみるだけでも、石岡さんが領域の枠組みを超えてアクティブに活動していたことが分かります。 例えばパルコの広告キャンペーンのポスター、角川文庫の雑誌『野性時代』の表紙。
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『野性時代』展示風景
マイルス・デイヴィスのアルバム・パッケージ『TUTU』、オペラ『忠臣蔵』、映画『ドラキュラ』(1992) の衣装。
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マイルス・デイヴィス『TUTU』展示風景
シルク・ドゥ・ソレイユの衣装、オペラ 『ニーベルングの指環』 の衣装、ターセム・シン監督による映画『落下の王国』や『白雪姫と鏡の女王』の衣装などなど。
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シルク・ドゥ・ソレイユ:ヴァレカイ 展示風景
あらゆる仕事に共通するのが、1人でものづくりをしているのではなく、複数人で1つのものを作ることに関わっていることです。 広告や映画など、1人では完成させられない仕事をされてきています。
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ソルトレイクシティオリンピック ウェアの展示風景
人数が増えるほど1人の個性は薄まるかと思いきや、石岡さんの仕事にそんな後退は感じられませんでした。 かといって全てが石岡色に染まるのではなく、作品全体を一段高いところに押し上げる役割に徹しています。
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『落下の王国』展示風景
そこが石岡さんの凄いところではないか、と展示を見ながらしみじみ思いました。 構想の段階で、作品が世の中に対してどんなインパクトを持つのか、嗅ぎ取る嗅覚が鋭かったのではないでしょうか?
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石岡瑛子風姿花伝『EIKO by EIKO』
本展のタイトルにも含まれている「血が、汗が、涙がデザインできるか」は、実際に石岡さんが言った言葉です。 言い換えれば「感情をデザインできるか」であり、「私の中の熱気を、観客にデザインというボキャブラリーでどのように伝えることができるだろう」と話しています。 (石岡瑛子 世界グラフィックデザイン会議での講演より 2003年)
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『ザ・セル』展示風景
石岡さんが語る「私の中の熱気」は、先ほど考察したように作品の構想段階で生まれているのではないかと思います。 作品の構想と、完成後の作品を見る大衆とを、どのように結びつけるのか。 石岡さんのデザインが大衆を魅了するのは、制作者側の感情をデザインしているからではないかと感じました。
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『ミシマ―ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』展示風景
制作者の感情…その表現が上手くできれば、どんなに楽しいだろうか。 私は物書きで、実体のあるものをデザインするわけではありませんが、感情の的確な表現にはいつも悩んでいます。 発信者が「これで伝わるだろう」と思う表現は、だいたい過不足があって伝わらないですからね…。
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『ドラキュラ』展示風景
そんな悩みがあったため、私は石岡さんの表現に突破口を見出したような気持ちでいます。 「感情のデザイン」という視点で見ると、全ての人がなんらかのメッセージを持ち帰れる展覧会ではないでしょうか? Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか 会場:東京都現代美術館 企画展示室1F、B2F 会期:2020年11月14日(土)- 2021年2月14日(日) 休館日:月曜日(11月23日、2021年1月11日は開館)、11月24日、12月28日-2021年1月1日、1月12日 開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) 所要時間:2時間 観覧料:一般は1800円(予約優先チケットあり) 公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/

関連情報

石岡瑛子さんの最新にして最も詳しい評伝も刊行されます。 膨大な作品や関係者への取材を通じ、才能と魂を燃やして生きた「命のデザイナー」の生涯と時代を探ります。 同じく東京都現代美術館では、『MOTアニュアル2020 透明な力たち』展も開催中! 低すぎて聞こえない音、見えない磁力など、人間にとって『透明』に思えるけど確かに存在する力に焦点を当てた面白い展覧会です。 東京都現代美術館といえば、2021年にマーク・マンダースの展覧会が予定されています。 金沢21世紀美術館で開催中のマーク・マンダースとミヒャエル・ボレマンスの展覧会を取材したので、予習にいかがでしょうか? アーティゾン美術館では、『琳派と印象派』展が開催中です! 日本美術・西洋美術それぞれの歴史の中でも、特に人気があるジャンルの作品が集結しています。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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