『MOTアニュアル2020 透明な力たち』主観レビュー。

東京都現代美術館で『MOTアニュアル2020 透明な力たち』が開幕しました。
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清水陽子 作品展示風景
「透明な力」とは、誰かに教えてもらって初めて存在を知るような、簡単には把握できない外力のことだと私は解釈しています。 例えば、人間には聞こえないほど低い音や、質量を持たない思考やデジタルの資源などが挙げられます。
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片岡純也+岩竹理恵 作品展示風景
「透明な力の存在を、透明ではないアートで表現する」という発想自体が面白い試みですし、アーティストのアーティストたる能力がはっきりと現れる展覧会でした。 簡単に言うと、好奇心を刺激するエキサイティングな作品がたくさんあって、大きな花丸の良い内容です。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分) 《15 minutes》
出展作家はこちらの5組です。 ・片岡純也+岩竹理恵 ・清水陽子 ・Goh Uozumi ・中島佑太 ・久保ガエタン 順番に紹介していきますね。
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片岡純也+岩竹理恵 作品展示風景
「片岡純也+岩竹理恵」は、2人組のアーティストユニット。 電球や切手、飲み物の缶など身近な日用品に対し、磁力や風力などによるエネルギーを加えることで、本来の日用品の役割とは違う動きをさせる作品を作っています。 つまり「変な動き」をしている作品が多く、笑いが溢れて楽しいです。 例えば電球が円を描きながら板の上を回っている作品は、電球の存在意義も無くなってるし、何か生産性がある動きでもないし、喜劇ですね。
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片岡純也+岩竹理恵 作品展示風景
切手から切り出した蝶々が、ふらふら動く作品も。 蝶々が磁石に乗っているので、鉄の定規が上を通るときに反応し、ふらふら飛んでいるように見えるんです。
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片岡純也+岩竹理恵 作品展示風景
ユーモアに溢れた作品ですが、私たちの「常識」や「当たり前」に気づかせてくれると思いました。 片岡純也さんと岩竹理恵さんの作品を見たときの衝撃が大きい人ほど、普段は常識に縛られているのかもしれません。
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片岡純也+岩竹理恵 作品展示風景
一方で、頭蓋骨、本、蝶々など16世紀の静物画(ヴァニタス)に登場するモチーフも使われています。 死をイメージさせる儚いモチーフが使われており、一見すると喜劇らしく楽しい作品に奥行きを持たせています。
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清水陽子 作品展示風景
清水陽子さんは、自然、生命、宇宙のメカニズムをテーマに自然の力を利用しながら作品を制作しているアーティストです。 展示室そのものが清潔な実験室のようで、「ここで何か起きている」と感じられる空間です。 代表作の一つ、《Photosynthegraph》は、植物の光合成を利用して、植物にグラフィック印刷を行った作品です。 フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》や《牛乳を注ぐ女》などを印刷した作例が展示されていました。
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清水陽子《Photosynthegraph》(部分)
葉っぱに印刷用フィルムを取り付けて植物を育成するLEDを照射すると、フィルムのパターンの箇所以外で光合成が起こります。 光合成によって葉の中に取り込まれたパターンを、化学処理によって人間にも見えるように可視化し、作品にしています。
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清水陽子《Photosynthegraph》(部分)
清水さんの作品は、植物やセルロースのようなミクロな世界から、宇宙というマクロな世界までに存在する、人間が持っていない力と協働して作られています。 作品を通して自然の美しさを学ぶとともに、自然の力への尊敬を抱きました。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分) 《社会的選択とその敵》
Goh Uozumiさんは、《New Economic War》(新経済戦争)と題したインスタレーションを展示しています。 「質量を持たないものを資源として扱えるようになった時代をどう捉えたら良いのか」をテーマにしており、私たちは何者に動かされているのか、多数決は意思を反映しているのか、など現代社会を考える作品です。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分) 《思考の質量》
「質量を持つ資源」は石油や食料のことですよね。 では「質量を持たない資源」とは何かと言うと、人々の興味や関心、思考のように、質量は無いけれど使いようがあるもののことです。 Gohさんは、質量を持たないものをどうやって資源として扱えるのか、また、それを扱うのに特化した人が今の時代の支配者になり得ることを考えておかなければならない、と話していました。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分) 《Welcome To Attention Economy》
このアイディアを象徴する作品だと感じたのが、グリーンバックとモニターなどで構成された作品です。 後ろの某大統領らしき映像も手前の某首相らしき映像もAIによって生成されたもので、本人の映像ではありません。 後ろの映像に某首相の映像を被せることで、後ろの人が某首相を操っているように見える構造になっています。 Gohさんは本作が表すのは「注目」と解説しています。 映像には具体的な会見内容や人物はおらず、ただ「会見の映像」だけが流れています。 またまたGohさんの言葉をお借りしますが、フェイクニュースが素早く広まった後、正しい情報を出してもそこまで広がらず、元の世界には戻らない現象があります。 今の時代は「注目」自体にパワーがあるんです。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分) 《Virtual Virtual-Coins-Origin》
こうした現代の課題をスパスパと綺麗に暴いていくインスタレーションなので、お見事としか言えないのですが… 自分も社会の一員で渦中にいることを思うと、未来に不安を感じます。 社会の一員として生まれているので、気づいていない透明な力があるんです。 自分の意思のありかを疑い始めたらキリがありませんが、Gohさんの作品に接すると、何を信じたら良いのか分からなくなります。 観る人の思考のアクセルをぐいぐい踏む作品ですね。
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Goh Uozumi インスタレーション《New Economic War》(部分)
ちなみに、展示室の床には大量のQRコードがありました。 私の端末は古いからかな、うまく読み込めなかったのですが、皆さん試してみてくださいね。 床のQRコードはロボットアームの作品と関連があります。
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中島佑太 作品展示風景
中島佑太さんは、主にワークショップを通じて人々の「当たり前」を問い直したり再構築したりするアーティストです。 今回展示されている《あっちがわとこっちがわをつくる》では、展示室が新聞紙のバリケードで2つに分けられています。
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中島佑太《あっちがわとこっちがわをつくる》
片方からは、訪れた人が自ら考えたルールを書いた紙ひこうきを、反対側に飛ばせるようになっています。 反対側ではルールを受け取り、修正案や意見を話すことができます。 また、バリケードは高くて上から向こうを覗こうとしても難しいのですが、反対側からは覗き穴の場所が分かるようになっています。 どんな人がルールを書いているのか、本人に知られずに覗くことができます。
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中島佑太《あっちがわとこっちがわをつくる》
別の展示室では、何組かの家族と中島さんのワークショップの映像や成果物が展示されています。 意味が無さそうなルールを考え、真剣に守っていくワークショップの様子を覗けます。 私たちも、あらゆるルールとともに生活しています。 最近なら、マスク着用やソーシャルディスタンスといった新型コロナウイルス対策のルールが付与されました。 一方、押印のように「これ不要なのでは?」と見直され始めたルールもあります。
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中島佑太 作品展示風景
中島さんたちのワークショップを見ながら私なりにルールについて考えてみたのですが。 一度ルールを設けると、撤廃するときに「ルール必要派」が登場するの面白くないですか? 脱はんこも随分昔から言われていましたが、「契約前にひと呼吸置くため」「文化や伝統は大切にしなければ」「はんこ屋さんがつぶれる」といった白からグレーまで多岐に渡る理由が上がり、最近まで強く残っていました。
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中島佑太 作品展示風景
思えば、ルールを作った当初は時代にバッチリ嵌っていたのかもしれないけど、いまとなってはそうでもなく、「名残」になっているルールって多いですよね。 マスクやソーシャルディスタンスも、コロナの脅威が去った後も名残として残るかもしれません。 (コロナの脅威が去る、の定義がぼんやりしているけど) ルール、あるいは名残を透明な力として捉え、私たちの生き方を問うているように感じる展示でした。 (「トイレットペーパーは押印してから使う」とか脱・脱はんこルールを紙ひこうきに書いて飛ばして来れば良かった)
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久保ガエタン 作品展示風景
久保ガエタンさん展示は、人間に知覚できない力を観測することをテーマにしています。 スクリーンでは、音声を録音する蓄音器や伝達する電話の開発の歴史や、ナマズが地震を予知できるらしいことがテンポ良い映像で語られます。
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久保ガエタン 作品展示風景
そんな「人間には感知できない力」の一例として、久保さんは「低すぎて聞こえない音」を挙げていました。 映像作品を観ている人と、背後の壁の向こうから、突然大きな音が聞こえてきます。 人間が感知できない振動がトリガーになるため、突然に聞こえるんです。
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久保ガエタン 作品展示風景
壁の聴診器で振動をキャッチし、振動のエネルギーで発電したり、波を起こしたりしています。 ナマズが地震を知覚する仕組みを、人の力で再現したような装置になっています。
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久保ガエタン 作品展示風景
映像や装置を見ていて気付いたのが、この世界は人間には聞こえない音で溢れているかもしれない、ということ。 「静かで落ち着くなぁ〜」と寛いでいるとき、実は低周波の音がガンガン鳴り響いていて、全く静かではないかもしれないんです。 人間が感知できない力は数多あるはず。 しかし、「感知できない力」はその生き物にとっては「存在しない力」に等しいので、発見すら困難です。 まさに「透明な力」を可視化する展示で、自分の生活の見方が変わったように感じます。
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長くなってしまいましたが、5組のアーティストを紹介してきました。 それぞれ独自の視点で「透明な力」を捉え、誰にでも見える「アート」の形でスッキリと表現しています。 みんなが薄々感じている力や、全く知覚できない力が、実は身近にあることを教えてくれる展覧会です。 展示室を出た後、自分の生活でも課題について考えてしまうほど、身近なテーマで面白い展覧会でした。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:MOTアニュアル2020 透明な力たち 会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F 会期:2020年11月14日(土)- 2021年2月14日(日) 休館日:月曜日(11月23日、2021年1月11日は開館)、11月24日、12月28日-2021年1月1日、1月12日 開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) 所要時間:2時間 観覧料:一般は1300円 公式HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/mot-annual-2020/

関連情報

同じく東京都現代美術館では、石岡瑛子展も開催されています! 映画の衣装やパルコの広告などの仕事から、感情をデザインする彼女のクリエイティブを読み解きます。 アーティゾン美術館では、琳派と印象派展が開催されています。 日本美術と西洋美術それぞれの一つのピークが同時に見られる展覧会です! 三菱一号館美術館では、ルドンとロートレックを中心とした展覧会が開催中です。 19世紀末の活気あるパリの美術をまとめて観ることができます。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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