『GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ』主観レビュー。

すみだ北斎美術館で『GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ』が開幕しました!
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江戸時代の北斎、国芳、暁斎などの浮世絵版画や、明治以降に台頭した漫画雑誌や漫画本などの近代漫画を取り上げ、日本の漫画が発展してきた歴史を探ります。
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葛飾北斎『北斎漫画』三編 雀踊り図 年代不詳(初版1815[文化12]年)すみだ北斎美術館
個人的には、明治から昭和の漫画の展示が面白かったです。 江戸の作品は他のテーマの美術展でも見ることができる「美術品」として扱われているのですが、漫画は「漫画」のテーマでないと展示される機会が少ないですから…。
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小星・東風人『お伽 正チャンの冒険』二の巻 朝日新聞社 1924(大正13)年9月10日
江戸時代の北斎、国芳、暁斎の作品には馴染みがある方も、明治から昭和の作品は初見のものが多いのではないでしょうか? 「漫画」の文脈だからこそ見られる作品が集結しているので、貴重な展覧会になっています。
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(左)歌川広重(初代)即興かけぼしづくし 1830~44年頃(天保年間)、(右)歌川国利 有が多気御代の蔭絵 年代不詳
本展では江戸時代の「戯画」を現代の日本の漫画的な表現の出発点と捉え、展覧会は浮世絵版画の展示からスタートします。 「戯画」とは「人物の顔や動物などを遊びの目的や滑稽さ、諷刺的な意味を持たせて描かれた絵」のこと。 今風の言葉だと「いじる」という感覚でしょうか。 行き過ぎた倹約や飢饉、それにともなう一揆が続いたことで、政治や世相を風刺する戯画が登場しました。
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歌川芳藤 心夢吉凶鏡 1867(慶応3)年4月
漫画的な表現として興味深いのが、江戸時代には既に「吹き出し」や「コマ割り」が存在していたこと。 歌川芳藤『心夢吉凶鏡』では、頭の中で渦巻く「欲」が噴出しで表現されています。 現代の漫画でもほわほわした吹き出しで心のうちを表現することがありますが、全く同じだなぁと感じました。
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作者不詳 往生要集 17世紀(慶長6~元禄13年)頃
近代に入ると、4コマ漫画のようにストーリー性を持った漫画が作られていきます。 漫画が普及した背景には、明治時代になると西洋から進んだ印刷技術がもたらされ、新聞や雑誌の文化が急速に進んだことがあります。
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『滑稽新聞』第109号 滑稽新聞社 1906(明治39)年2月20日
一方で、検閲もバリバリ存在していた時代には、政治や世相を風刺する作品が不敬罪に問われることも珍しくありませんでした。 例えば宮武外骨(1867~1955)もその一人で、主宰する『頓智協会雑誌』の掲載漫画が不敬罪に問われ、3年間入獄しています。 その後、お上の目が厳しい東京を離れ、大阪で『滑稽新聞』を創刊し、大ヒットとなりました。 個人的に滑稽新聞について調べていたところだったので、本物を見られて嬉しかったです。
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『滑稽新聞』第120号 滑稽新聞社 1906(明治39)年8月5日
第二次世界大戦時には、厳しい表現規制が敷かれます。 雑誌は休刊するわ、漫画家は従軍画家として戦地に派遣されるわで、自由に漫画を描けない時代に突入しました。
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展示風景
戯画や漫画は政治を皮肉りながらも、政治に翻弄され続けてきました。 漫画が政治を変えたことなんて、あったのだろうか(あったとしても少ないでしょう)。 漫画は大衆を笑わせ、楽しませながら、お上が振るう刃を一身に受け、耐えてきた文化なのかもしれないと思うと、苦しくなってしまってね…。 (背中を刃で傷つけられながらも、それを悟らせないよう満面の笑みを浮かべる、悲しい筋肉モリモリの男をイメージして漫画を擬人化させながら)
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(左)河鍋暁斎「暁斎百図」あいた口へおはき/恋に上下のへだてなし 1863(文久3)~66(慶応2)年頃か、(右)河鍋暁斎「暁斎百図」ぶたのかるわざ 1863(文久3)~66(慶応2)年頃か
戯画も漫画も大衆に向けた表現なので、お上のご機嫌をうかがう類のものではありません。 本展は当時の世相を反映し、厳しい検閲にさらされながら紡いできた創作の歴史が詰まった展覧会、と言えるのではないでしょうか。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ 会場:すみだ北斎美術館 会期:2020年11月25日(水) 〜 2021年1月24日(日) ※一部展示替えを実施予定  ◎前期:2020年11月25日(水)~12月13日(日)  ◎中期:12月15日(火)~2021年1月3日(日)  ◎後期:1月5日(火)~1月24日(日) 休館日:毎週月曜日、年末年始(12/29(火)~1/1(金))、1月11日(月・祝)は開館、1月12日(火)は休館 開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで) 所要時間:1.5時間 観覧料:一般は1200円 公式HP:https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/view/1140

関連情報

戯画のセンスも高い、近年評価と人気が高まっている河鍋暁斎。 暁斎について学ぶなら、安定のもっと知りたいシリーズで。 東京国立近代美術館では、『眠り展』が開催されています。 心地よい眠りを描いた優美な絵画から、永眠や死蔵を思わせる作品まで、幅広く展示されています。 新宿のSOMPO美術館では、東郷青児の蔵出しコレクションが開催中です。 中止になったゴッホと静物画展の代理ですが、ゴッホに負けず劣らずの良い展示でした! Bunkamura ザ・ミュージアムでは、ベルナール・ビュフェの回顧展が始まりました! 黒い線が特徴の黒い絵画は、ゴシックホラー好きな人とかにおすすめしたい。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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