特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」主観レビュー。

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国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
東京国立博物館で特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」が開幕しました! 「鳥獣戯画」とは擬人化された二足歩行の動物や、伝説上の生き物、当時の人々の営みを生き生きと描いた絵巻。 国宝「鳥獣戯画」は甲・乙・丙・丁の4巻から成り、ウサギやカエルがわちゃわちゃ遊んでいるようで可愛らしい甲巻は特に人気がありますよね。
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展示風景
過去にも鳥獣戯画を展示する展覧会はありましたが、今回はバツグンに凄い! どんなところが凄いのかと言うと… ①一度に全4巻の全場面が見られる ⇒これまでの展覧会では、例えば絵巻の前半を前期、後半を後期に展示するなど、すべてを見るためには2回以上の来館が必要でした。しかし本展では絵巻の絵の部分をすべて伸ばして展示されているので、合計44メートルを超える全場面が見られます! ②模本・断簡も数多く展示される ⇒鳥獣戯画は一部が切り離されたり失われたりしています。切り離された「断簡」や、一部が失われる前に模写された「模本」を見ることで、鳥獣戯画の本当の姿に近づけます! ③甲巻は「動く歩道」で快適に鑑賞できる ⇒下の写真のとおり。自動で横移動してくれるので、鑑賞に集中できます。世紀の大発明です。
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展示風景
このように、今までの展示を遙かに上回る充実っぷりなんです! 展覧会のタイトルどおり、「鳥獣戯画のすべて」を見ることができました。 鳥獣戯画は全4巻から成りますが、各巻に明らかな繋がりが無いことや、筆致や画風が異なることから、12世紀から13世紀(平安時代末期から鎌倉時代初期)にかけて、複数の作者によって描かれたものとされています。
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国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
甲巻では、擬人化されたウサギやカエル、猿、狐などが生き生きと描かれています。 水遊びをする場面には水の流れも丁寧に描き込まれ、この作品にかける作者の思いが伝わってくるようでした。
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国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
ウサギとカエルが相撲を取ったり、賭弓をしたりする場面も。 賭弓(のりゆみ)とは平安時代の宮中行事の一つで、勝者には賞品が与えられ、敗者はお酒を飲まされる罰ゲームがありました。
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国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
人間の営みを擬人化して表したような作品ですが、表情も動きもとてもユーモラスで愛らしいです。 擬人化ならではの表現が、平安時代には成立していたのだと思うと驚きます。 本展では、甲巻は動く歩道に乗って鑑賞することができます。 ゆっくりした動きで鑑賞に丁度良いスピードでした!
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展示風景
動く歩道に乗って初めて分かったのですが、鑑賞に集中できて良いですね。 普通は自分の足で歩いて絵巻を見ますが、後ろに人がつかえていないかなどが気になり、あまり集中できていないのだと知りました。
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国宝 鳥獣戯画 乙巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
乙巻には、さまざまな動物が描かれています。 前半には身近な生き物が、後半には想像上の生き物や、当時の日本にはいなかった珍しい生き物が登場します。
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国宝 鳥獣戯画 乙巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
霊亀(れいき)や麒麟(きりん)のような想像上の生き物も、実在したのではないかと思うほどリアルで生き生きとした表現です。 獅子や龍も描かれているんですよ~。 乙巻には、山羊も珍しい生き物として描かれています。 当時の日本には山羊や羊は根付いていなかったため、珍しかったのですね。
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展示風景
丙巻は、前半は人間の風俗が描かれ、後半には甲巻と似た擬人化された動物たちが登場します。 なぜ前半と後半とで全く異なる題材が描かれているのかというと、もともとこれらは1枚の紙の表と裏に描かれていました。 表面に人間、裏面に動物といったイメージです。 その紙の表と裏を剥がして2枚にし、繋げて1つの絵巻にしたため、前半と後半とで題材が異なっています。 全4巻のうち、傷みがもっとも激しく見えるのもそのためです。 (しかし、1枚の紙を剥がして2枚にする技術も凄すぎる)
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国宝 鳥獣戯画 丙巻(部分) 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 通期
丙巻の人間パートは、耳引きや首引き、腰引きの部分が面白かったです! 上の画像だと左側で、向かい合った2人が耳に紐を引っかけて引っ張り合っています。 綱引きのようなイメージで、よく見るとどちらが優勢なのかも分かります。
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展示風景
首引きは、首に引っかけた紐を引っ張り合う遊び。 腰引きは、大きな紐の内側に2人が入り、腰で引っ張り合う遊びです。 腰引きではガリガリに痩せた人と太って重そうな人が戦っているのですが、瘦せた人の方が優勢に見えるような…?
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丙巻の解説パネルの一部
他にも、丙巻で描かれる勝ち負けのある遊びでは、弱そうな者の方が優勢に描かれているそうです。 将棋では、大人の僧に対して子供の方が優勢なのだとか。 「大きい人・強い人だって負けるときは負ける」というメッセージだとしたら、滑稽な面白さに加え、優しさも感じてしまいます。 鳥獣戯画がますます愛おしくなってしまいました。
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国宝 鳥獣戯画 丙巻(部分) 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 通期
丙巻の動物パートでは、再びカエルやウサギが大活躍! 葉っぱを帽子のように被っているのが可愛らしくて堪りません。
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国宝 鳥獣戯画 丁巻(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期 丁巻でも、人間の勝負事が多く描かれています。 流鏑馬のシーンのように、滑らかかつ力強い筆致は生き生きとして魅せられます。
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鳥獣戯画から飛び出したキャラクターが案内してくれます。
全4巻にはそれぞれ異なる特徴や見どころがあるので、会場でしっかり見比べたいですね。 しかし、鳥獣戯画は今までに一部が切り離されたり、失われたりしたため、完成した当時のままの姿を留めているわけではありません。 そこで、切り離された「断簡」や、原本から失われれる前に写された「模本」もあわせて見ることで、鳥獣戯画の本当の姿を浮かび上がらせることができます。
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重要文化財 鳥獣戯画断簡(東博本) 平安時代 12世紀 東京国立博物館 通期
例えば、上の断簡は甲巻から分けられたことが分かります。 左に描かれた点々のような萩の花は、下の写真のように繋がります。
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解説パネルの一部
断簡や模本をあわせて読み解いていくことで、いつ頃までに切り離されていたのかが分かるのも面白いと思います。 鳥獣戯画を伝える高山寺の文化財や、鎌倉時代の僧である明恵上人ゆかりの作品も展示されていました。
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重要文化財 明恵上人坐像 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期
《明恵上人坐像》が寺外で公開されるのは28年ぶりとのこと! 瞳が潤っているように輝きを放っていて、生きているようにしか見えませんでした。
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重要文化財 子犬 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期
明恵上人が愛玩した《子犬》も可愛い。 運慶の子、湛慶の作である可能性が高いのだそうです。
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展示風景
全4巻の全場面展示や動く歩道など、画期的な展示が実現した特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」。 擬人化した動物や人間をユーモラスに描いた、日本美術史上まぎれもない傑作中の傑作です。 最高に充実した展覧会になっています! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」 会場:東京国立博物館 平成館 会期:2021年4月13日(火)~5月30日(日) 休館日:月曜休館 ※ただし5月3日(月・祝)は開館 開館時間:午前9時〜午後7時(最終入場は午後6時)※総合文化展は午前9時30分~午後5時 観覧料:一般は2000円 ※事前予約制(日時指定券) 公式HP:https://chojugiga2020.exhibit.jp/

関連情報

展覧会に合わせた書籍も登場しています。 やっぱり全場面が載ってるのが良いですよね! パナソニック汐留美術館では、フランスの写実主義の画家、ギュスターヴ・クールベの展覧会が開幕しました。 山育ちの画家が描いた海には特別な力を感じます。 藝大美術館では渡辺省亭の大規模な展覧会が始まりました! 実力の割に埋もれていた、お宝ばかりが展示されています。 SOMPO美術館では、オランダの画家、ピート・モンドリアンの展覧会が開幕しました! 「なぜこれが名画なの?」との疑問も聞かれるほどシンプルな絵で知られていますが、見れば評価が変わるはず! YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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