『国立工芸館石川移転開館記念展Ⅲ 近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい―』主観レビュー。

美術が好きな知人の間でも、「茶碗はどう見たら良いか分からない」と話題になることがあります。 それは、東京でせかせか暮らす私たちに、茶の湯を楽しむゆとりが無いからではないか、と思います。
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展示風景
石川県金沢市の国立工芸館で『近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい―』が開幕しました。 たくさんの茶碗、水指、茶器、釜など茶の湯の器を見られる展覧会で、実際に茶室で使用するイメージも湧く構成になっています。 茶の湯の文化が根付いている金沢ならではの展覧会ですね。
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展示風景
本展では近代以降の作品を見ることができ、作例の幅広さに驚きました。 例えば、一口に「茶碗」と言っても志野、瀬戸黒、白磁など素材や技法によって色々も形も異なる茶碗があること。 同じく志野でも作家によって表現の特徴が異なること。
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エミール・ガレ《繖形花序文蓋物》1880s 国立工芸館蔵(阿部信博氏寄贈)
また、元から茶の湯の器として作られたものではなくても、使い手が「これは茶碗にびったり!」と思えば使って良く、海外の作品なども茶の湯の器になり得ること。 実際の展示作品は文章で表現するよりもバリエーションに富んでおり、茶の湯の世界の広さ・深さをはっきりと感じられました。
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展示風景
すべてが見所なのですが、特によく見ておきたいのが荒川豊蔵(1894-1985)と加藤唐九郎(1897-1985)の茶碗です。 荒川豊蔵は志野や瀬戸黒の再興に尽くし、人間国宝に認定された人物です。 志野、瀬戸黒、黄瀬戸など美濃のやきものは桃山時代にさかえたのですが、時代と共に忘れられてしまいました。 荒川は陶片を発見したことを機に、桃山時代のやきものを蘇らせました。
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荒川豊蔵《志野茶垸 不動》c.1953 国立工芸館蔵(加藤孝造氏寄贈)
荒川豊蔵と加藤唐九郎は近代を代表する作家で、作風や作陶の姿勢は「静の豊蔵、動の唐九郎」と表されてきました。 本展では彼らによる志野、黄瀬戸などさまざまな作品が展示されています。 作品からも静と動の印象が伝わるでしょうか? 表面の手触りの感じ、模様の繊細さ・大胆さから、作り手の思いや個性が伝わってきます。
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加藤唐九郎 《志野茶盌 亜幌》1969 個人蔵
また、作品名に含まれる「ちゃわん」の文字も興味深いです。 例えば、一般的には「茶碗」と書きますが、荒川は「茶垸」と書いています。 ここにも作り手の思いが表れており、「垸」には石ではなく素材となる土に拘る様子が見られます。
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展示風景
ちなみに出品される茶碗の多くが「茶盌」という字を作品名に含んでいます。 「盌」はうかんむりが無く蓋の無い器を指す漢字で、茶道ではお茶を点てる「ちゃわん」のことを「茶盌」と表記します。 読み方は同じでも、茶碗、茶盌、茶垸と異なる作品名の漢字を読み解くことで、作品への理解が深まって面白いですよね。
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展示風景
一つ一つの作品を見るのも楽しいのですが、「茶室ではどんな風に使うんだろう?」と気になってきませんか? 本展には茶室を用いた展示もあり、茶の湯の世界観をしっかり感じられるようになっています!
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展示風景
こんな素敵な展示を見たら、茶道って良いな…ってなりますよね〜。 器だけでなく、掛け軸やお花の取り合わせも考え、しかし好みを押し付けるのではなく「もてなす」ことが先に立つのです。 それにしても、以前来たときにも感じたのですが、金沢は東京よりも茶の湯文化との距離が近いです。 観光でふらりと立ち寄ったお店で本格的な抹茶と和菓子をいただき、緊張と感動を味わったことを覚えています。
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展示風景
金沢の茶道文化は、江戸時代、加賀藩の文化奨励策で茶の湯に力を入れたことに起因しています。 今もお茶会がさかんに開かれているのって凄いですよね。
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展示風景
余談ですが金沢は和菓子の消費量も全国トップです。 総務省統計局の「家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング」で、菓子類の「他の生菓子」は金沢市が1位でした。 ネットで遡れる限界が2009年なのですが、2009〜2020年まで、3年ごとの平均でずっと1位です。
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石田亘《茶碗 華しずく》2020 個人蔵
茶の湯文化が金沢を始めとする各地で愛されているのは、現代の私たちも楽しめるからに他なりません。 現代では柔軟な考え方ややり方を取り入れたお茶会もあるそうですね。 本展でも、現代の感覚を取り入れた作品を数多く見ることができました。 例えば見附正康さんによる赤絵細描(あかえさいびょう)の器です。
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見附正康《赤絵細描小紋茶盌》2020 国立工芸館(クラウドファンディング)
赤絵細描は石川県九谷地域でさかえた、赤で細かな絵を描き、金彩を施す技法です。 九谷焼の作品で用いられる技法の一つで、見附さんの作品も赤色が細かく繊細で、虫眼鏡で見たいくらい! 見附さんの作品には、洋風を感じる幾何学模様や宝石のような青色も使われており、現代の美意識が反映されています。
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高橋奈己《白磁茶碗》2019 国立工芸館
その時代の価値観やライフスタイルと呼応して、考え方を柔軟に変えられるところも、茶の湯の魅力の一つだと思います。 先人から引き継ぎ、アップデートして次の時代に切り開く感覚が、展覧会からひしひしと伝わってきました。
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展示風景
本展では志野や黄瀬戸などやきものの知識も学べるし、近代から今までの器の変化も見ることができました。 展示を通して自然に茶の湯に興味を持てますし、自分でもやってみたい!と思いますね。 興味関心の世界が広がる、楽しい展覧会でした! Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:国立工芸館石川移転開館記念展Ⅲ 近代工芸と茶の湯のうつわ―四季のしつらい― 会場:国立工芸館(石川県金沢市) 会期:2021年4月29日(木・祝)-2021年7月4日(日) 休館日:月曜日(ただし5月3日は開館)、5月6日(木) 開館時間:9:30~17:30 ※入館時間は閉館30分前まで 観覧料:一般は500円 公式HP:https://www.momat.go.jp/cg/exhibition/the-third-of-the-national-crafts-museums-grand-opening-exhibitions/

関連情報

工芸品は細かいところまでしっかり見たいので、単眼鏡がおすすめです。 工芸の展覧会のみならず、美術館や博物館で大活躍します! 国立工芸館で以前開催された、開館記念展Ⅰも取材しました。 漆や蒔絵、九谷焼など石川県を代表する工芸品を数多く見ることができました。 国立工芸館から徒歩で行ける金沢21世紀美術館では、特別展『日常のあわい』が開幕しました! 日常を見つめ直す現代アートの展覧会です。 東京の山種美術館では、百花繚乱展が開催中です。 四季の花を描いた日本画の展覧会で、国立工芸館で見た器とセットで見てみたいなあ、と思ってしまいました。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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