『日常のあわい』主観レビュー。

「生きる」ことが楽しくなる。 そんな展覧会だと思います。
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岩崎貴宏《テクトニック・モデル》2021 展示風景
金沢21世紀美術館で、特別展『日常のあわい』が開幕しました! 日々の暮らしの中にある不思議な習慣や、震災やパンデミックによって変化した暮らしなどをテーマに、日常を捉え直す展覧会です。 いまという時代を共有している現代の作家による展示で、身近に感じられ、共感もできる展示でした。 とても親しみやすい内容ですが、アーティストならではのユニークな視点に驚くこともあり、面白い展覧会です。
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下道基行《ははのふた》2012- 展示風景
本展の出品作家は、以下の7組です(五十音順)。 〇青木陵子+伊藤存 〇岩崎貴宏 〇小森はるか+瀬尾夏美 〇小山田徹+小山田香月 〇下道基行 〇髙田安規子・政子 〇竹村京 順番に展示を紹介していきますね。
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青木陵子+伊藤存《その他の反乱》2021 展示風景
青木陵子さん、伊藤存さんの2人によるインスタレーションは、混沌とした日常や整理されていない思考をそのまま展示したような空間でした。 卵やポット、紙など白いものにプロジェクターでアニメーションを投影しているのですが、不思議な内容なので「どういうことなんだろう?」と考えながらいつまでも見てしまいます。
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青木陵子+伊藤存《その他の反乱》2021 展示風景
お二人は人々の暮らしの中に、編み物や畑作りなどの「つくる」という行為が根付いていることに気づき、空き家や使っていないものなどを使って新しい作品に作り変えてきました。 これをきっかけに、身の回りで整理されずに置かれている物事、すなわちiPhoneのストレージにおける「その他」のようなものに目を向けていきます。
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青木陵子+伊藤存《その他の反乱》2021 展示風景
そう言われてみると、私の部屋は「その他」だらけだな~と感じました。 途中まで使って後半は真っ白なまま放置しているノート、可燃なのか不燃なのか分からず捨てられずにいる断線したイヤホン、ダンボールの形がついて角ばった羊のぬいぐるみ… 本展で展示される脈絡がありそうな無さそうな日常の物事は、合理的になりきれない人間の日々の思考が投影されているように感じました。 不思議なオブジェクトとアニメーションによって、日常と非日常を行き来するような体験ができます。
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岩崎貴宏《リフレクション・モデル(テセウスの船)》2017/2021 展示風景
岩崎貴宏さんは、歴史的建造物や鉄塔、クレーンなどを縮小し、異なる素材に置き換えた作品を制作しています。 吊り下げて展示されているのは、厳島神社の実像と海に映った鏡像を表現した《リフレクション・モデル(テセウスの船)》です。
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岩崎貴宏《リフレクション・モデル(テセウスの船)》2017/2021 展示風景
「テセウスの船」は「テセウスのパラドックス」とも呼ばれるギリシャ神話に由来するパラドックスの概念です。 英雄テセウスが乗った船はアテネで保存されましたが、木造の船は少しずつ朽ちていくので、朽ちた部分は新しい建材で置き換えていきます。 元の建材が一つもなくなったとき、この船は元の船と同じものと言えるのか?別物なのか?というパラドックスですね。
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岩崎貴宏《アウト・オブ・ディスオーダー(誰が袖)》2021 展示風景
厳島神社もテセウスの船と同じで、災害などにより壊れた部分を当時の職人たちが補修して、現在の姿になっています。 補修する時点で職人は最善を尽くしているはずで、建造物は歴史的な知恵のアーカイヴになっているとも言えます。 補修を経ながら何百年も生きてきた歴史的な建造物は、私たちよりもずっと多くの非日常を経験しているはず。 私たちが現代の非日常らしい日常を生きるヒントが隠れているのかもしれません。
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岩崎貴宏《テクトニック・モデル》2021 展示風景
本の栞をほどいてクレーンを作った《テクトニック・モデル》や鮮やかな布から鉄塔を組み上げた《アウト・オブ・ディスオーダー(誰が袖)》は、私たちの生きる世界を縮小したように思える作品です。 都市などがどのように組み立てられているのか、神の視点から俯瞰できるような作品で面白い。 「栞をほどいてクレーンを作る」などどうやっているのか見当もつかない技術も見どころです。
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小森はるか+瀬尾夏美《みえる世界がちいさくなった》2019-2021 展示風景
小森はるかさん、瀬尾夏美さんの2人は、東日本大震災を機にアーティストユニットとして活動を始めました。 本展では、「震災後、オリンピック前」と「コロナ禍」における東京の若者たちが本音を語る映像と、言葉と絵、年表が展示されています。
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小森はるか+瀬尾夏美《みえる世界がちいさくなった》2019-2021 展示風景
2019年12月までは誰もパンデミックなど想定しておらず、「震災後、オリンピック前」のフェーズでした。 それが突然、日本では2020年1月か2月頃に「コロナ禍」に突入し、現在まで来ています。 展示では若者たちが本音を語る映像と、人物がマスクをしているコロナ禍の絵画が印象に残りました。
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小森はるか+瀬尾夏美《みえる世界がちいさくなった》2020年7月 展示風景
映像を見ていて、誰もがコロナの影響を受けているものの、影響の大きさや捉え方は人それぞれだなと感じました。 ただ、「生きること」と「生き延びること」が離れて行っているように思います。 コロナ前までの生きがい(例えば旅行や恋愛など)が、人流抑制や3密という制限によってできなくなっている人も多いので…。
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小山田徹+小山田香月《お父ちゃん弁当》2017 展示風景
小山田徹さんと娘の小山田香月さんの展示は、日常の中にある創造に着目した展示です。 《お父ちゃん弁当》は、当時、幼稚園生だった弟さんのために、娘の香月さんがお弁当の絵を描き、父親の徹さんがお弁当を作った家庭内プロジェクトです。
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小山田徹+小山田香月《お父ちゃん弁当》2017 展示風景
香月さんの絵は、何度も消しゴムで消して試行錯誤した跡が見られる絵もあれば、一発で決まったようなシンプルな絵もありました。 食材での表現に奮闘するお父ちゃんの姿が目に浮かぶようです。
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小山田徹+小山田香月《巡礼ゴッコ》2015 展示風景
《巡礼ゴッコ》の展示も面白かったです。 巡礼ゴッコとは、神様がいそうな場所に木の実や落花などを捧げる、幼稚園に通っていた娘さん、息子さんが発明した遊びです。
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小山田徹+小山田香月《巡礼ゴッコ》2015 展示風景
家庭内のユニークなルールや遊びは、家族のつながりを感じさせます。 当たり前の毎日が小さな工夫で楽しくなり、かけがえのない一日になるのですね。 日常のちょっとした出来事に宿る詩を見出せるプロジェクトです。
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下道基行《ははのふた》2012- 展示風景
下道基行さんが展示する《ははのふた》は、蓋をなくしたティーポットに、お皿など別のものを蓋として使っている様子を撮影した写真のシリーズです。 結婚を機に義母との同居が始まり、お義母さんが容器にいろいろな蓋を載せているのに気付いたそうです。
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下道基行《ははのふた》2012- 展示風景
なんだか愛しいですよね。 こうして写真を通じて他所の家の習慣を知ると楽しいです。 誰の家にも、こうした謎の習慣はあると思います。 私の実家だと…窓の下に結露を受け止める用のタオルを敷いておくとか、裏が白いチラシを新聞の横に溜めておくとか。 その家にとって実用的な習慣だけど、外から見ると不思議に見える。 そこに郷愁や詩を見出せるのではないでしょうか。
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下道基行《ははのふた》2012- 展示風景
等間隔で並べられた写真には、規則正しくやってくる朝を感じ取ることができます。 欠けたものを別のもので補う様子には、傷を癒したり柔軟に生き方を変えたりすることとも似ており、コロナ禍の今に呼応した作品だと思います。
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髙田安規子・政子《つながり》2021 展示風景
髙田安規子さん・政子さんは、双子の姉妹のアーティストユニットです。 身の回りの物のスケールを小さくした作品には、素材やできあがった作品に優しいストーリーを見出すことができます。
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髙田安規子・政子 作品展示風景
今回の展示では、極小から人間サイズまでグラデーションになるように展示された椅子が特に面白かったです。 人間サイズが日常、小さいものが非日常だとして、その間は明確に分断されるのではなく、つながっているのですよね。
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髙田安規子・政子《旅行鞄》2019 展示風景
革のジャケットの一部を切り出して小さなトランクを作った作品も面白いです。 室内にあるジャケットも旅に出たがっているように感じられました。
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髙田安規子・政子《旅行鞄》(部分)2019
髙田安規子さん・政子さんの作品は東京都現代美術館のコレクション展などでよく拝見しており、意外なものでミニチュアを作る発想が上手いんですよね。 発想の意外さや軽やかさに驚かされますし、新作と聞けば「今度はどんな驚きがあるんだろう?」とワクワクします。
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竹村京「修復された」シリーズ他 展示風景
竹村京さんは、傷ついたり壊れたりした日用品を透き通った布で包み、壊れた箇所に刺繍を施す「修復された・・・」シリーズを展示しています。 今回展示されているのは、刺繍に蛍光シルクを用いた作品で、刺繍の部分が明るく光っています。
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竹村京「修復された」シリーズ他 展示風景
蛍光シルクは遺伝子組み換えによって生み出されたもので、光るクラゲの蛍光タンパク質を遺伝子に組み込んだカイコからできています。 ただ暗くしただけでは光っている様子が人間の目には見えないそうで、ブルーライトを当てて私たちの目にも見えるように展示されています。
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竹村京「修復された」シリーズ他 展示風景
パソコンやスマホのブルーライトが人間の目に悪い影響があるのはご存じのとおりですが、それを当てなければ見えないのも面白いですよね。 また、永遠に同じ強さで光るものではなく、少しずつ光が弱くなる点にも命を感じられて良いな~と思います。 (会期中、不定期に修復する様子が公開されます)
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竹村京「修復された」シリーズ他 展示風景
糸が光っていること自体がアメイジングなので、ぜひ生で見て欲しい作品の一つです。 身の回りの日用品には記憶が詰まっており、破損した部分を光でつなぎとめるのは、儀式とも言えそうなほどの神聖さを感じます。
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髙田安規子・政子《豆本の山》2013 展示風景
本展には7組のアーティストが捉えた独自の日常が反映され、どの展示室も面白い空間になっていました。 災害やコロナ禍で変わったこと・変わらないことを見つめ直すきっかけにもなると思います。 世界が同時に困難な状況に陥っており、「生き延びる」ことのハードルが高くなっています。 しかし、自分なりの遊びを取り入れるなど工夫次第で、「生きる」ことはより楽しくなっていくのではないでしょうか。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。本展は一般の来館者も撮影可能です。

展覧会基本情報

展覧会名:日常のあわい 会場:金沢21世紀美術館 会期:2021年4月29日(木・祝) - 2021年9月26日(日) 休館日:月曜日(ただし8月9日、9月20日は開場)、 5月6日(木)、8月10日(火)、9月21日(火) 開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで) 観覧料:一般は1200円(日付指定入場制) 公式HP:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1788

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