『コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画』主観レビュー。

生々しい感情を称えた美人画。 それは美しさを超え、見る人を惹き付けて離しません。
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展示風景
東京ステーションギャラリーで『コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画』が開幕しました。 ところで皆さんは、福富太郎氏(1931-2018)のことをご存じでしょうか?
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展示風景
不勉強で申し訳ないのですが、私は知らなかったです… (アートの定理の読者さんは私と同世代が多いので、同じくピンと来ない方が多いのでは) また、「昭和のキャバレー王」と聞いてもあまりピンと来ないのですよね。 今までに見た展覧会に「福富太郎コレクション」の作品があったため、福富さんは美術収集家なのだろうな、と思っていたくらいです。
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上村松園《よそほい》1902年頃、福富太郎コレクション資料室
少し上の世代だと、テレビやラジオにもよく出演していた実業家のイメージがあるそうです。 キャバレー王と呼ばれるとおり、16歳でキャバレーのボーイになるなど下積みを積んだ後、31歳でキャバレー「銀座ハリウッド」をオープンし、全国に展開していきました。
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岡田三郎助《ダイヤモンドの女》1908年、福富太郎コレクション資料室
福富さんは絵画にも造詣が深く、美人画を中心に大きなコレクションを築きました。 鏑木清方を始めとする著名な画家の作品や、まだ評価されていないものの良いと感じた作品を購入していきます。 そうして形成されたコレクションの一部を、本展で見ることができました。
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渡辺省亭《幕府時代仕女図》1887年頃、福富太郎コレクション資料室
肝心のコレクションの質ですが、これが驚くほど高いんですよね。 鏑木清方を始めとし、上村松園に渡辺省亭、岡田三郎助などそうそうたる画家の名品がそろっています。 画家のネームバリューとは関係なく、会場で一目見れば作品の質の高さを感じられるはず。
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岡田三郎助《あやめの衣》1927年、ポーラ美術館
現在はポーラ美術館が所蔵しており福富さんの旧蔵品だった岡田三郎助《あやめの衣》も展示されていました。 後ろ向きの女性っていうのが良いですよね。 顔や胸のふくらみが見える正面から描いた方が情報量としては多いのですが、あえて情報量の少ない背中側を描くことで、美しさをにおわせている感じがします。 肌が出ているのに上品なのも素敵です。 露出しているのが背中の一部なのと、髪がしっかり結われているのが効果的なのだと思います。 肌の描写も丁寧なので、肌の滑らかさや柔らかさも伝わってきますよね。 着物の青と赤、背景の黄色もすべてが上手く調和しています。
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展示風景
本作はバブル崩壊時、福富さんの事業が苦しくなったときに売却され、ポーラ美術館の所蔵となりました。 生前の福富さんと深い交遊があった、美術史家で明治学院大学教授の山下裕二先生によると、福富さんはこの件について「いい女が助けてくれるんだよ」と仰ったそうです。 粋な表現ですよね…絵画を見てもまさに「いい女」だと思います。
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北野恒富《道行》1913年頃、福富太郎コレクション資料室
北野恒富《道行》とも再会することができました。 東京国立近代美術館の『あやしい絵展』に出品されたので、記憶に新しい方も多いのでは。 《道行》は近松門左衛門の戯曲「心中天網島」を題材とした「心中もの」です。 顔を背ける男性としなだれかかる女性は言葉にしがたい憂いを持っており、元ネタの戯曲を知らない人にも悲恋の状況が分かるようです。 「心中もの」は画商にとって売りにくいそうで、こうした作品を引き取るのは個人では福富さんくらいだろう、と考えた画商が福富さんに持ち込んだそうです。
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展示風景
ぜひ直に見ていただければと思うのですが、本展は福富さんが特に好きだった鏑木清方の作品も充実しています。 独身時代、「どんなタイプの女性が好きなのか」とお節介を焼かれそうになると、福富さんは「鏑木清方が描く女」と答えていたそうです。 絵の中の美女がタイプだと言われてしまったら、お節介も焼ききれませんよね。 福富さんは少年の頃から掛け軸や雑誌の口絵などで美人画を見ており、特に清方の美人画に惹かれていたそうです。 そうした経験から独自の美意識を築き、日本の近代絵画の一大コレクションを築くに至ったのですね。
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展示風景
本展で展示される美人画には、美しさだけでなく憂いや悲しみを感じることができ、複雑な感情が含まれているように思います。 表層の美しさだけをなぞった作品ではなく、しっとりと情が湧く美人画なんです。
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展示風景
福富さんの好みなのかなと感じると同時に、人間の生々しい感情が籠った美人画の名品です。 見る人が離れられなくなるような強さを持った作品が多く、充実した展覧会でした。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画 会場:東京ステーションギャラリー 会期:2021年4月24日(土) - 6月27日(日) 公式HP:http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202104_fukutomi.html

関連情報

あやしい美人画を集めた書籍も。 福富太郎コレクションの作品も異彩を放っています。 東京オペラシティ アートギャラリーでは、『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』が開幕しました。 暗めの展示室で懐中電灯を使い、自分で探しながら作品を見るなど、とても面白い試みです。 山種美術館では『百花繚乱展』が開幕しました。 日本画に描かれた四季の花には、画家の美意識が鮮やかに投影されています。 東京国立博物館では、鳥獣戯画展が開幕しました。 全4巻の全場面を一度に楽しめる、画期的な展覧会です! YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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