『イサム・ノグチ 発見の道』主観レビュー。

時間がかかったって良いじゃないか。 馬のように速く駆けるのではなく、牛のように力強く生きていこう。 と人生を学びました。
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「あかり」インスタレーション
東京都美術館で『イサム・ノグチ 発見の道』が開幕しました。 イサム・ノグチ(1904-1988)は、日本人の父とアメリカ人の母との間に生まれ、アイデンティティに葛藤しながら独自の彫刻哲学を築いた彫刻家です。
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イサム・ノグチ《黒い太陽》1967-69年 国立国際美術館蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
皆さんも、ノグチの彫刻を目にしたことがあるのではないでしょうか? 彼の作品を紹介する前に、抽象彫刻がどんな流れで誕生したのかをお伝えしていきますね。 ざっくりと流れを把握すると、ノグチの作品のどこが面白いのかが浮かび上がってくると思います。
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フリーフォームソファ、フリーフォームオットマン
近代の巨匠、ロダンから話を始めましょう。 《考える人》《カレーの市民たち》などでお馴染みの、19世紀後半のフランスで活躍した彫刻家です。 ロダンの彫刻は人間から型を取ったようなリアルさと、人間の内面の激しい感情の表現を両立していました。 偉大すぎる彫刻家で、彼以降の彫刻家の多くがロダンを越えようとしていたのですね。
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イサム・ノグチ《坐禅》1982-83年 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
その参考になったのは、素朴で原始的な彫刻や、シュルレアリスムやキュビスムなど当時の最先端の美術運動などでした。 ロダンという写実の巨匠の登場は、彫刻を写実以外の方面に広げることになったのです。 例えば、抽象彫刻を代表するブランクーシ《空間の鳥》をご覧いただくと、ロダンとの違いがよく分かると思います。 《空間の鳥》はリアルな鳥ではなく、鳥の概念が表現されています。 それでも翼のようなイメージは伝わるので、風を切って飛ぶ気持ち良さのようなものを感じられます。
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イサム・ノグチ《ヴォイド》1971年(鋳造 1980年)和歌山県立近代美術館 ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
こうした流れで、彫刻は写実以外の表現を模索し、徐々に洗練されていきます。 ノグチは戦前にブランクーシの助手を務めたことがあり、近代彫刻の広がりを肌で感じていたことでしょう。 最初はブランクーシの影響を受けてシンプルな形の作品を作っていましたが、彼自身も模索していたようで、作風はどんどん移ろって行きます。 シュルレアリスムからの影響を受け、いくつかのパーツを組み合わせた彫刻も制作しました。
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イサム・ノグチ《化身》1947年(鋳造 1972年)イサム・ノグチ財団・庭園美術館(ニューヨーク)蔵(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
《化身》もその一つで、1940年代から手がけた「インターロッキング・スカルプチュア(複数のパーツの組み合わせによる彫刻)」を代表さる作品です。 留め具を使わず、3つのパーツが組み合わさって自立しています。 1950年代には日本を訪れ、日本の文化に触発された作品を残しています。 竹と紙を用いた「あかり」のシリーズは、光の彫刻という新たな彫刻作品であるとともに、日本の文化ち見られる「かろみ(軽み)」に刺激を受けた作品です。
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「あかり」インスタレーション
本展ではインスタレーションによって光の彫刻を楽しめる構成になっています。 「あかり」を150灯も用いており、ノグチの世界を全身で楽しめる展示です。
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「あかり」インスタレーション
特に良かったのが石の彫刻のセクションです。 香川県高松市牟礼町にあるイサム・ノグチ庭園美術館が所蔵する、石の彫刻を見ることができました。 ノグチが作る石の彫刻には、自然な石の質感が残っています。 中には、どこに手を加えたのか分からない作品も。
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イサム・ノグチ《ねじれた柱》1982-84年 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
ノグチは制作について、石の話を聞いてちょっとだけ手助けしてあげると語っています。 西洋の彫刻だと彫刻家が思うままに石を加工するのですが、ノグチは違うんですね。 石との共同作業なんです。
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イサム・ノグチ《無題》1987年 イサム・ノグチ財団・庭園美術館(公益財団法人イサム・ノグチ日本財団に永久貸与) ©2021 The Isamu Noguchi Foundation and Garden Museum/ARS, NY/JASPAR, Tokyo E3713
《無題》は1つの石から削り出された作品です。 石の質感と量感を大事にしつつ、何とも言えない神秘的な形が実現しています。 あまり人工的ではなく、自然と溶け合うようなイメージがあります。 作品名を《無題》としたのは、人間の言語で言い表させないからではないか、と感じました。 自然のエネルギーが詰まっているように思います。
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《プレイスカルプチュア》2021年、鋼鉄、茨城放送蔵
お伝えしてきたように、ノグチはさまざまな人や文化から影響を受けています。 ブランクーシ、シュルレアリスム、日本の文化… ノグチが自分らしい彫刻を確立するまでには、これだけの紆余曲折があったのですね。 その全てが必要なものだったから、曲がりくねった長い道のりは「発見の道」と言えるのでしょう。
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「あかり」インスタレーション
ところで夏目漱石は、自分を師として慕っていた20代の芥川龍之介と久米正雄に、手紙でこんなことを話しています。 「牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なりきれないです」 「世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです」 展覧会でノグチの初期から晩年の作品を見て、真っ先に漱石のこの話を思い出しました。
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「あかり」インスタレーション
ノグチは力強い牛の歩みで、発見の道を切り開いてきました。 それは彼だけに特別なことではなく、先の見えない社会を生きる私たちにとっても必要なことだと思います。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:イサム・ノグチ 発見の道 会場:東京都美術館 企画展示室 会期:2021年4月24日(土)-8月29日(日) 公式HP:https://isamunoguchi.exhibit.jp/index.html

関連情報

イサム・ノグチのことが分かる、安定のもっと知りたいシリーズがこちら。 日本とアメリカと2つのルーツを持ったことは、葛藤でもあり、活路でもあったように思います。 東京ステーションギャラリーで福富太郎コレクションの展覧会が始まりました。 憂いのある美人画を中心に、見ごたえのある名品が集結しています。 東京オペラシティアートギャラリーでは、収蔵品展が始まりました。 イギリスのアーティストであるライアン・ガンダーさんが発案した、斬新な展示方法が面白すぎました! 山種美術館では百花繚乱展が始まりました。 お花が描かれた絵画の特集で、画家によって花のどこに魅力を感じたのか、違いが分かって面白かったです。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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