パナソニック汐留美術館で『サーリネンとフィンランドの美しい建築展』が始まりました!
展覧会のタイトルで「美しい」と言い切っており、相当な自信がうかがえます。

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ヴィトレスクのサーリネン邸のダイニングルーム Photo: Ilari Järvinen/Finnish Heritage Agency, 2012
美しさについては百聞は一見に如かずですが、展示のレポートをする前に、フィンランドのイメージを列挙してみましょう。 皆さんはどんなイメージがありますか? ・インテリア、デザイン ・オーロラ、森、湖 ・ムーミン ・サウナ ・サンタクロース ・キシリトール ・税金が高い など、平和で牧歌的なイメージや、社会福祉や健康に力を入れているイメージがあるのでは。
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1900年パリ万国博覧会フィンランド館 ラハティ市立博物館
そんなフィンランドが、約100年前まで被支配国だったことは、あまり知られていないのではないでしょうか。 帝政ロシアから独立したのは1917年のこと。 19世紀末にロシアからの干渉が高まると、民族の伝統に目を向ける「ナショナル・ロマンティズム」が高まり、フィンランドのアイデンティティを強く意識した芸術が多く生まれました。
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展示風景
1900年にシベリウスが作曲した交響曲『フィンランディア』や、それに詩人のコスケンニエミが作詞して生まれた『フィンランディア賛歌』がその代表例です。 帝政ロシアの支配への抗議と大公国フィンランドの独立への願いを歌っています。 彼らの力強い芸術は独立にも結びつき、フィンランドの芸術は19世紀末から20世紀初頭にかけて黄金期を迎えました。
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展示風景
当時、自国のアイデンティティと同様に重要だったのが近代化です。 建築分野では、住宅のみならず公共建築や都市の設計も課題になっていきます。 エリエル・サーリネン(1873-1950)は、フィンランドのモダニズムの原点を築いた建築家。 民族のルーツを求めたスタイルからフィンランドらしいモダニズムへと作風を展開しながら、住宅や商業建築、公共建築などを設計しました。 本展では1923年に渡米するまでのフィンランド時代を中心に、サーリネンの建築を紹介しています。
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展示風景
サーリネンと大学の同窓生であったゲセリウス、リンドグレンの3名で立ち上げたゲセリウス・リンドグレン・サーリネン建築設計事務所(GLS建築設計事務所)の名を世界に知らしめる契機となったのが、1900年のパリ万博。 フィンランド館の設計競技で彼らの案は一等に選ばれました。
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手前:1900年パリ万国博覧会フィンランド館模型(縮尺1:100)2021年 制作:諏佐遙也(zouzuo model)
木造が基本のロシア建築から脱却し、一部に本物の花崗岩と軟石を用いて石造を模した建築です。 茅葺きの屋根も、ヨーロッパの他の石造建築では見ない斬新なアイディアですね。 フィンランド館には同時代の工芸品も展示され、フィンランドの底力を世界に発信しました。 当時の器など工芸品が本展でも展示されています。 古さをまったく感じないですね、北欧デザインの息の長さを感じます。
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展示風景
その後もGLS建築設計事務所の活躍は目覚ましく、ポホヨラ保険会社ビルディング、フィンランド国立博物館と大きな仕事を手がけていきました。 特に注目したいのが住宅建築で、サーリネンによる水彩の透視図は必見です。
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エリエル・サーリネン《スール=メリヨキ邸、広間の透視図》1902年 フィンランド建築博物館
室内の透視図は、施主に内装を提案したり、協働する芸術家にコンセプトを伝えたりするために使われました。 こんな感じでどうですか?と提案されたら、「ぜひこのとおりにお願いします!」と即答してしまいそう。
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展示風景
しかし絵画の領域ですよね。 壁や床、家具だけでなく細かな装飾まで描かれ、まだ建てていない空想上の住宅とは思えません。 教会の内部にも似た神聖さを感じられます。 図面の絵でここまでこだわるんです、実際の建築物も完璧に決まっています。
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夜のヘルシンキ中央駅玄関、エーミル・ヴィークストロムによる彫像 《ランタンを持つ人》 Photo ©Museum of Finnish Architecture/ Foto Roos
サーリネンがフィンランドで建築を手掛けたのは20年と少しですが、フィンランド時代の初期と終盤とでは手がける建築の規模も作風も変わっています。 独立に近代化と大きな課題に直面する時代の要請と、移ろいゆく流行に応えた結果だと感じました。 環境の変化を敏感に察知して、新しい建築を生み出すのは、現代のクリエイティブにも通じる能力ですよね。
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ポホヨラ保険会社ビルディングの中央らせん階段 Photo ©Museum of Finnish Architecture/ Karina Kurz, 2008
「美しさ」の定義や人々の好みは時代によって変わるもの。 サーリネンの建築の美しさは、時流をとらえて人々の想像の一歩先を見せてくれるところにあるのではないでしょうか。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:サーリネンとフィンランドの美しい建築展 会場:パナソニック汐留美術館 会期:2021年7月3日(土)~9月20日(月) 休館日:水曜日、8月10日(火)~13日(金) 開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)※9月3日(金)は20:00まで(入館は19:30まで) 公式HP:https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/21/210703/

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