ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチを超える天才が、ようやく現れました。
世界よ、北海道の逸材を見てください。

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《全身を耳にして》(部分)、2002年、鶴雅リゾート㈱蔵
東京ステーションギャラリーで『木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ』が始まりました。 熊や狼、人間などをテーマに木彫作品を制作した藤戸竹喜(ふじと・たけき、1934-2018)さんの回顧展です。
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《遠吠えする狼》2018年、個人蔵
「木彫り熊」というと、鮭を持っている北海道のおみやげのイメージがあるのでは。 藤戸さんも木彫り熊の職人ですが、作品はおみやげや民芸品を超え、芸術の域に達しています。 その表情の豊かさよ。 動物たちにも意志があり、思考があることを感じさせる眼差しです。
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展示風景
毛までリアルに彫られており、等身大の作品は剥製を見ているようでした。 光の反射の仕方が剥製と同じなんです。 意識して手を引っ込めていないと、撫でてしまいそう。
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《リラックス》2001年、鶴雅リゾート㈱蔵
恐ろしいのが、その制作方法です。 通常、木彫の作家は対象をデッサンしたり粘土でマケット(試作品のようなもの)を作ってイメージを固めていきますが、藤戸さんはいきなり木を彫り始めます。 しかも、まさかりでスパスパと切っていくらしいのです。
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展示風景
また、藤戸さんの作品は一木から彫り出されています。 パーツを別々に作って接着しているのではなく、全体が1個のパーツと言いましょうか。 丸太の中から作品をそのまま取り出すようなイメージです。
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展示風景
この制作方法は、ミケランジェロのそれと似ています。 ミケランジェロも一つの大理石から作品を取り出すように彫りました。 デッサンやマケットを作らなくても、頭の中に3Dの完成図をイメージできて、そのとおりに彫れる、ということでしょうか。 藤戸さんもミケランジェロも常人をはるかに超えてしまっています。
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《鹿を襲う狼》1978年、個人蔵
後ろ脚を跳ね上げた鹿は、前足の2本で地面と接するのみ。 折れてしまうのでは、と不安になるほど細い脚で……あと1ミリでも深く彫っていたら折れそうな限界ギリギリです。 重い胴体を細い脚で支える表現は、大勢の芸術家が苦労してきた部分です。 レオナルド・ダ・ヴィンチも、2本の後ろ脚で立ちいななく馬とそれに乗る人のブロンズ像を考案しましたが、断念して3本の脚で支えるプランに変更しました。
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《鹿を襲う熊》1977年、個人蔵
素材が異なるとはいえ、レオナルドが諦めるような難しいポーズを、藤戸さんは実現させています。 しかも一木ですよ……接着でも難しいのに。
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《語り合う熊》2018年、個人蔵
母熊が子どもを可愛がる場面、狼が鹿に食らいつく場面など、どのシーンも絵になりますね。 実際にこういったシーンを見たことがあるとは限らず、頭の中で物語を組み立て、形にしていたとのこと。 動物の形もまるで違和感がないのに、頭の中にしか設計図がなかったなんて信じられないですよ。 神業です。神のごとき藤戸竹喜。
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展示風景
木彫り熊の職人のなかでも抜きん出ているだけでなく、芸術家としても間違いなくトップクラスの技術です。 これだけ優れた人が美術の業界で知られてこなかったのは、職人として活動していたからでしょう。
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《木登り熊》2017年、個人蔵
藤戸さんは木彫り熊の父親の影響で12歳から熊彫りを始めました。 自分なりに削って父親に見せるも、気に入られず火にくべられてしまう……そんなスパルタ教育のなか、見よう見まねで技術を習得していきました。 一切の妥協がない職人の世界での努力が、人間のものとは思えない作品に結び付いています。
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展示風景
本人も自分の作品が芸術だと感じていたかは不明ですし、美術の世界とは接点がなかったので、美術界ではあまり知られていません。 東京ステーションギャラリーの冨田章(とみた・あきら)館長が北海道で藤戸さんの作品に出会ったことがきっかけで、今回の展覧会が実現しました。
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《全身を耳にして》(部分)、2002年、鶴雅リゾート㈱蔵
「木彫り熊の展覧会」と書くと、物産展みたいでかなり語弊があると思うんです。 かといって、「動物の彫刻の展覧会」とするのもなんだか違う気がする。 本展で展示されるのは、もっと根本的で目に見えない、彫刻の核心です。 彫刻の限界ギリギリを攻めた藤戸さんの作品が、多くの人の知るところとなりますように。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ 会場:東京ステーションギャラリー 会期:2021年7月17日(土)~9月26日(日) 休館日:8/10(火)、8/16(月)、8/23(月)、9/6(月)、9/13(月) 開館時間:10:00~18:00 ※金曜日は20:00まで開館 ※入館は閉館30分前まで 公式HP:http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202107_fujito.html

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