森美術館で開催中の『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』へ行ってきました。
71歳から105歳まで(展覧会が始まった時点)の、現役の女性アーティスト16名による展覧会です。

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フィリダ・バーロウ《アンダーカバー2》2020年 Courtesy: Hauser & Wirth
……と紹介してしまうと、「老後の暇を持て余したおばあちゃんたちが趣味にしている手芸の展覧会」のように伝わってしまうかもしれません。 そうではなく、全員が50年以上のキャリアを持ち、市場の評価とは関係なく制作を続けてきたアーティストです。 出身地は14か国に及び、多様な出自や個性を持っています。
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ロビン・ホワイト 作品展示風景
なぜ森美術館は、高齢の女性アーティストに焦点を当てたのか。 世界の不均衡を浮き彫りにすると同時に、創作の源泉がどこにあるのかを問おうとしているのだ、と受け取りました。 まず、世界は酷く不平等です。 根拠のない差別が根付いた土の上に、今の社会が成り立っています。
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スザンヌ・レイシー《玄関と通りのあいだ》2013/2021年 クリエイティブ・タイム(ニューヨーク)、ブルックリン美術館エリザベス・A・サックラー・センター・フォー・フェミニスト・ アートの協賛によって2013年に制作
人種やジェンダーなどによる差別が無意味であることは、今となってはほとんどの人が理解していると思いますが、現在の社会システムは、人々がそう理解する前に整えられたものです。 差別意識を持つ人は減っていると思いますが、それゆえに、まだ残ってる社会システムに潜む差別まで、無いもののように感じている人が多いのでは、と私は感じています。 慣習に従ったり、前例を踏襲したりすること自体が、不均衡を助長する場合があるのです。 日本だって、昔からの社会システムの延長上にあるのだから、人種やジェンダーなどの不均衡と、決して無関係ではありません。
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リリ・デュジュリー《風景》1976-1977年
世界的には、ジェンダーや人種、民族などの個性や特徴に基づく、非科学的な不公平を正す動きが高まっていますが、日本にいるとどこか他人事のように感じられる人もいるのではないでしょうか。 そう感じるのは、あなたが「不均衡によって損をする側」ではないからかもしれません。 さて、海外を含め美術業界に焦点を絞ると、この業界では白人男性優位の環境が長らく続いてきました。 本来、創作には人種も性別も関係ないはずなのに、白人男性以外の人々の活躍の機会は限られていました。 そうした不均衡を正す背景もあり、多様なバックグラウンドを持つアーティストに注目する美術館が増えています。
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アンナ・ボギギアン《シルクロード》2021年
本展が、50年以上のキャリアを持つ女性アーティストを紹介するのには、こうした背景があります。 アートマーケットに見向きされない時代でも、彼女たちはアーティストとして、制作に力を注いできました。 他者からの評価とは関係なく、自分の作品を創ることにエネルギーを燃やし続けたのです。
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センガ・ネングディ《パフォーマンス・ピース》1978年
本展は、世界の不均衡を浮き彫りにする社会的な展示であるとともに、創作の源泉はどこにあるのかを問う展覧会だと感じました。 創作とは人間の本能であり、市場や経済とは無関係なのではないでしょうか。
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ミリアム・カーン 作品展示風景
出展作家たちのユニークな作品からは、「自分に見える世界を、自分のやり方で表現したい」という強い意志が伝わってきます。 フィリダ・バーロウが作る、命が生まれるかけているようなエネルギーを感じられる立体作品。 リリ・デュジュリーの、少ない要素でピリピリと緊張した空間を作り出すアイディア。 センガ・ネングディがストッキングで表現する、妊娠と出産をきっかけに関心を持った、人間の身体の弾性。 難民問題や原子力問題などに関心を持つミリアム・カーンの、鮮やかな色彩による絵画。 自らの制作について「ゴミを一生懸命作っている」と語る三島喜美代がいち早く気づいていた、情報の氾濫に対する危機。
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三島喜美代 作品展示風景
16名のアーティスト全員の紹介には膨大な文字数を費やすため、割愛させていただきます。 パワフルな作品たちからは、創る意味を外部からの評価ではなく、自分の内側に求めているように受け取りました。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人 会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) 会期:2021年4月22日(木)~ 2022年1月16日(日) 休館日:会期中無休 開館時間:10:00~21:00(最終入館 20:30)※当面の間、左記のとおり時間を短縮して営業 ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30) ※ただし11.23(火・祝)、12.28(火)、1.4(火)、1.11(火)は21:00まで(最終入館 20:30) 公式HP:www.mori.art.museum

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