東京ステーションギャラリーで『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』が始まりました。
小早川秋聲(こばやかわ・しゅうせい、1885-1974年)は、大戦を含む大正から昭和にかけて、京都を中心に活動した日本画家です。

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展示風景
展覧会が開かれる、という情報が耳に入るまで、秋聲を知らなかった私がレビューを書くのはどうなんだろう…… とは思いますが、秋聲に詳しくない私でもしっかりと感じられた、展覧会の奥行きのようなものをお伝えできたらいいな。
E76-803
《長崎へ航く》1931年、個人蔵
まず、秋聲の作品で特によく知られているのが、《國之楯(くにのたて)》だそうです。 本作が持つメッセージの強さ、鑑賞者を引き込む力は、展覧会のなかでも確かに群を抜いていました。
E76-812
《國之楯》1944年、京都霊山護国神社(日南町美術館寄託)
軍服を身につけた状態で、仰向けに横たわる陸軍将校の遺体が、黒い背景に浮かび上がるような本作品。 胸の上で両手を組み、祈りを捧げるかのようなポーズを取っています。 頭の上には丸い光のようなものがぼんやりと描かれ、遺体に神秘的な力が宿っているように感じました。 寄せ書きされた日章旗が顔に被せられ、表情がわからないどころか、誰を描いたのかもわかりません。 (第二次世界大戦中、兵士の家族や友人は、無事を願って日の丸に寄せ書きをし、戦地に送り出してきたそうです)
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展示風景
本作が持っている、厳かで神聖な性質が伝わるでしょうか。 勇敢に戦う場面でもなく、悲惨さを強調した場面でもなく、顔を隠されて静かに眠る匿名の遺体。 戦争によって失われた多くの命を思い、しかし使命を背負い戦った者の気高さも表現しているようで、複雑な感情が含まれた作品だと思います。
E76-811
《御旗》1934年、京都霊山護国神社(日南町美術館寄託)
《國之楯》はとてもインパクトが強い作品で、秋聲といえば本作というイメージを持つ人が多くても、納得だと感じます。 しかし、従軍画家として描いた作品だけが、秋聲のすべてではありません。 本展では、初期の歴史画や旅先を写生した作品、晩年の仏画など、いろいろな題材の作品が展示されています。 点と点が線で結ばれて形になるように、秋聲の作品もそれぞれがリンクし、響き合っていました。
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展示風景
静かな雰囲気の作品が多く、秋聲は内向的な人なのかな、と思いましたが、実際はとてもアクティブだった、というのも不思議です。 若い頃には中国、インド、エジプト、イタリア、ドイツ、オーストリア、フランス、イギリスなど、あらゆる国をめぐり、各地を写生しました。 その旅はお気楽なものではなく、武装集団に囚われたり(馬術と武術の腕前を評価され、逆に勧誘される)、冬のアルプス山脈で遭難しかけたりしたことも。 私の辞書では、秋聲さんのそれは旅とは言わないのですけれど。
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展示風景
旅のエピソードからは、冒険好きでアグレッシブな性格が伝わってくるものの、作品はしっとりと情緒で濡れているように思います。 このギャップは一体なんなんだ……? 展覧会では、秋聲の謎めいた魅力を味わうことができました。
E76-813
《天下和順》1956年、鳥取県立博物館
本展は京都文化博物館(2021/8/7~9/26)での展示を経て、東京で開催され、終了後は鳥取県立博物館(2022/2/11~3/21)に巡回予定。 鳥取では、新たに見つかった資料も加わり、パワーアップした展示になる予定、と聞いております。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌 会場:東京ステーションギャラリー 会期:2021年10月9日(土)~11月28日(日) 休館日:月曜日[11月22日は開館] 開館時間:10:00~18:00 ※金曜日は20:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで 公式HP:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202110_kobayakawa.html

関連情報

展覧会の図録は、現時点で最新にして、最も詳しい秋聲の本です。 あまり研究されて来なかった画家のため、秋聲について知りたいなら、本書以外にはありえません。 パナソニック汐留美術館でジャポニスムの工芸品の展覧会が始まりました! ハンガリーで作られた器の日本っぽさに驚き、勝手に親近感を持ちました。 アーティゾン美術館で森村泰昌さんの展覧会が始まりました! メイクや衣装、セットを駆使して名画になりきってきた森村さんが、新たに挑戦したのは、青木繫《海の幸》でした。 東京都美術館でゴッホ展が始まりました。 今回はコレクターであったヘレーネ・クレラー=ミュラーがコレクションを築き、美術館を開館するまでの足跡に焦点が当てられており、ヘレーネの心を癒す形でゴッホの夢がかなったのではないかと思いました。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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