『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』に行ってきました。
15世紀の初期ルネサンスから、19世紀の印象派・ポスト印象派まで、約500年の西洋絵画史を一望できる展覧会です。

大阪市立美術館で開幕し、閉幕後は東京の国立新美術館に巡回予定です。

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展示風景
さすがメトロポリタン美術館、各時代を代表する巨匠の名画が来日しておりました。 ・フラ・アンジェリコ ・ティツィアーノ ・ラファエロ ・カラヴァッジョ ・ブーシェ ・ジェローム ・マネ ・クールベ ・モネ ・ルノワール ・セザンヌ ・ゴッホ ・ゴーギャン など、西洋絵画史の重要人物が勢ぞろい。
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展示風景
全体的な見どころは楽活とイロハニアートで書いたので、アートの定理では、私が特に好きな作品を紹介しますね。 まずはラ・トゥール《女占い師》 ラ・トゥールは死後すっかり忘れられてしまった17世紀フランスの画家。 彼の作品は夜の絵と昼の絵に分けられ、夜の絵は闇夜を照らす蝋燭の明かりの表現が秀逸です。 《女占い師》は昼の絵で、愚かな金持ちから女たちが金品を盗み取る場面。
05_ラ・トゥール《女占い師》
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 《女占い師》 おそらく1630年代 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1960 / 60.30
中央の若い男性は、「なんか怪しいよな~」とわかってはいそうな顔で左の老婆を見つめ、お金を渡しています。 (老婆が男にお金かメダルを渡しているようにも見えるけど) 女占い師とはこの老婆のことで、まあ、何か占いを告げてるのでしょうね。 肝心なのは、男性を取り囲む3人の女性たちです。 彼女たちの手元を見ると、男の持ち物をしれっと盗んでいます。 男が老婆を気にしている間に、スリを働く……ターゲットの気を逸らせて盗む手口は、今も昔も変わらないのですね。 老婆が男の気を逸らす役で、若い女たちがスリを実行するという、組織的犯行です。 ラ・トゥールはこういう「金持ちだが世慣れていない愚か者をコケにする絵」が得意でした。 《いかさま師》もそうですね。 私は騙し合いの映画やドラマが大好きなので、ラ・トゥールの絵にも同じような物語を感じ、とても好きなんです。 しかし、絵をもう一度よく見てほしいのですが、
05_ラ・トゥール《女占い師》
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 《女占い師》 おそらく1630年代 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1960 / 60.30
男の左手の爪、黒く汚れていませんか……? もしこれが爪の汚れなのだとしたら、彼は「金持ちのボンボン」ではないのでは? 身なりの良いお金持ちが、手が汚れるような仕事をするとは思えません。 もしかしたら、男のほうが金持ちの振りをして、女たちを騙そうとしているのかもしれない。 または、男は本当に世間知らずの金持ちで、既に何かしらのトラップにかかって手が汚くなった後、占い師たちによって次なるトラップにかかろうとしている……とも読み取れます。 騙し合いのゲームに勝ったのは、男か女か。 結末はラ・トゥールのみぞ知る、ミステリアスな絵画です。
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エリザベート・ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン《ラ・シャトル伯爵夫人(マリー・シャルロット・ルイーズ・ペレット・アグラエ・ボンタン、1762-1848年)》1789年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館
それから、本展では18世紀から19世紀にかけてフランスで活躍した、女性画家にも焦点を当てています。 当時は男女で受けられる教育が異なり、女性はアカデミックな教育を受けられませんでした。 そんな中、独学したり先生についたりして、絵を描く力を身につけた女性たちが台頭してきます。 私が「これは!」と思ったのが、マリー・ドニーズ・ヴィレールという画家が描いた《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)》です。 この作品、新古典主義の巨匠ダヴィッドが描いたとされていた時期があるのだそう。 本作でなぜそんな勘違いが起きたのかはわかりませんが、「女性の名前では売れない」「女性に良い絵が描けるわけない」などの偏見から男性画家の名前をつけられた事例は多々あり、失礼しちゃうな、と毎度思います。
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マリー・ドニーズ・ヴィレール《マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)》1801年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館
話を戻して絵に注目すると、肖像画なのに「逆光」で描かれた珍しい作品です。 通常、肖像画は正面から光を当て、顔を明るく描きますが、本作は背中側から光を受けているので、顔が暗いんですよね。 女性の表情は疲れて見えるし、部屋の中には椅子以外ないのかと思うほど無機質で寂しいし…… 窓の外に見える仲良さそうな男女の姿が、室内の物悲しさを一層強調しているような……しかも、窓ガラスが割れて、一部なくなってませんか? 私は陰と陽なら陰が好きなので、これだけ後ろ向きな要素が詰まった絵を見たら、好きにならずにはいられません。 逆光ならではの、回り込む光の美しさもありますし。 左腕の輪郭や、頭部の周りの髪が光る様子、とても綺麗だと思います。 画家も逆光の美しさに魅了され、絵に描いたのではないでしょうか。 マリー・ドニーズ・ヴィレールさん、本展で初めて知った画家なので、注目していきます。
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ジャン=レオン・ジェローム《ピュグマリオンとガラテア》1890年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館
また、ジェロームの《ピュグマリオンとガラテア》は大好きな絵なので、今回見られて嬉しいです。 ピュグマリオンは、自分が彫刻で作った理想の女性に恋をしてしまった、ギリシャ神話に登場するキプロス島の王。 話しかけたり食事を用意したりするも、相手は彫刻なので何の反応もなく、ピュグマリオンは次第にやつれていきます。 衰弱した彼を憐れに思った女神アフロディーテが、彫刻に命を与え、ピュグマリオンは命を得た彫刻を妻にします。 ジェロームが描いたのは、彫刻が命を得るまさにその瞬間。 頭から足先にかけて命が宿っていく、物語のクライマックスです。 ピュグマリオンが彼女にすがるような姿勢になってるのも良いなあ……感極まったピュグマリオンの感情が読み取れます。 立ち位置の高低差を利用したジェロームさん、天才だわ。 裸婦を正面から描かず、後ろから描いたのも素晴らしい。 彼女の顔も体つきもわかりませんが、これくらい情報を隠されたほうが、想像力が膨らむというものです。 逆光とか後ろ向きとか、私はそういうのが好きだな。
10_セザンヌ《リンゴと洋ナシのある静物》
ポール・セザンヌ 《リンゴと洋ナシのある静物》 1891-92年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Bequest of Stephen C. Clark, 1960 / 61.101.3
あとは駆け足になりますが、ブーシェ《ヴィーナスの化粧》、レンブラント《フローラ》、セザンヌ《リンゴと洋ナシ》が特に好きですね。 フェルメール《信仰の寓意》は、「引き算の美」といわれるフェルメールにしてはモチーフを詰め込んだ珍しい作品なので、もっと時間をたっぷり取って見ればよかったかな。
06_フェルメール《信仰の寓意》
ヨハネス・フェルメール《信仰の寓意》 1670-72年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931/ 32.100.18
今回メトロポリタン美術館から来日した65点は、どれも西洋美術史において重要な作品です。 しかも、そのうち46点が日本初公開。 美術初心者から、展覧会に行きまくっている強者まで、皆さんが楽しめる展覧会だと思います。 Share!▶︎ このエントリーをはてなブックマークに追加 ※取材許可を得て撮影しました。

展覧会基本情報

展覧会名:メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年 公式HP:https://met.exhn.jp/ 【大阪展】 会期:2021年11月13日(土)~2022年1月16日(日) 会場:大阪市立美術館 【東京展】 会期:2022年2月9日(水)~5月30日(月) 会場:国立新美術館 企画展示室1E

関連情報

展覧会の図録は、私も大好きなラ・トゥール《女占い師》! 中には絵画の一部分を拡大した写真があり、ページをめくっても名画の迫力に衝撃を受けるのでした。 『楽活』にもレポートを寄稿しました! 展示構成が見事で、西洋絵画史の重要なターニングポイントがとてもわかりやすかったので、展示から歴史を紐解く形で紹介しました。 イロハニアートでは、より初心者向けにシンプルに解説。 京都国立近代美術館では、上野リチ展が始まりました。 楽しい気持ちにさせてくれる作品たちで、リチの人柄が伝わってきました。 YouTubeの動画づくりを頑張ってます!
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